「父系」と「母系」

血統において、当然のことながら「父」と「母」は大切です。当たり前の話ではありますが、半分ずつその遺伝子を直接もらっているからです。 また、「エネルギーの通貨」であるアデノシン三リン酸(ATP)を合成するミトコンドリアのDNA(遺伝子)は母親からしか授からない母性遺伝の様式であることから、 母方の祖母、曾祖母……に遡る「母系」も非常に重要です。

一方で「父系」はどうなのでしょうか? 同じ父系であれば同じY染色体を持つことになります。サラブレッドの血統を語る上で、競走能力に関連する遺伝子がY染色体上にあるのなら、 父系を論じる意義は十分にあります。しかし、現在の分子生物学では、Y染色体には雄という性を決定づける以外に有用な遺伝子はほとんどないとされています。

確かに影響力の強い「父」は存在します。サンデーサイレンスが良い例でしょう。けれども、サンデーサイレンスのその影響力を、 その父であるHaloに遡ってHalo系の威力のように論じるのは当然に無理があります。市販本では、例えば「Mr. Prospector系」(さらにはその下の「Kingmambo系」) のように系統毎のサイヤー群の特徴を説いた論述が散見されますが、正直言ってあまり意味があるとは思えません。

拙著でもサイヤーラインの樹形図を詳細に掲載していますが、正直なところこれは「お遊び」の部分もあります。敢えてサイヤーラインの樹形図の意義を見つけるとすれば、 どのあたりの系統が繁栄しているかをマクロな視点で把握することにより、例えば、配合を模索する上での参考となる場合はあるかと思います。

(2018年1月10日記)

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