吉田善哉氏の父系
今年も POG の季節到来……ということで、一昨日の仕事帰りに『Gallop臨時増刊 丸ごとPOG 2019〜2020』を買いました。
仲間内でのささやかなお遊びではあるものの、変なプライドもあって絶対に負けたくないので(笑)、追って真剣に検討しますが、
1位指名する馬はほぼ決まりました。
ところで、この本の表紙には著名関係者7人の名前が列挙されていますが、そのうちの5人の名字は「吉田」です。
この5人の吉田さんの父または父方祖父は吉田善哉氏であり、なにか私の頭の中では、
サンデーサイレンスの父系が日本の競馬界を席巻していることとオーバーラップしてしまうのです。
あらためて、この5人とは、社台ファームの吉田照哉氏および吉田哲哉氏、ノーザンファームの吉田勝己氏、追分ファームの吉田晴哉氏および吉田正志氏の各氏です。
俗に「社台グループ」と呼ばれるこれら各氏が率いる組織が、今日の日本の生産界、さらには日本の競馬界を牽引し、
そのレベルアップに多大な貢献をしたことは疑う余地がありません。
ところで、ふと思うのです。社台ファーム、ノーザンファーム、追分ファームの後継者各位におけるこのビジネスに対する情熱は、本当に間違いなく確かなものなのか?
その答えが YES なら稀に見る凄いことです。本当にその答えが YES ならば、吉田善哉氏から流れる遺伝子のパワーはとてつもないものです。
善哉氏の3人の息子たち(照哉氏、勝己氏、晴哉氏)、さらにはその各氏の息子たち(哲哉氏、俊介氏、正志氏)が例外なく、
確かなビジネス感覚を維持しながら自ら率先して馬産に情熱を注いでいるとしたなら、
世の中のありとあらゆるファミリーを見渡してみてもなかなか見つからない、本当に稀有中の稀有の素晴らしい一族と言えます。
しかしです、偏屈な私は、「本当にそうだろうか……?」とも思ってしまうのです。
皆さんの身の周りをちょっと見渡して下さい。子供たちがしっかり家業を継がずに終わった例はいくつも見つかるのではないでしょうか?
「江戸の時代から代々継承して今の店主は○代目」のような例も確かにありますが、このような例は、職人技が要求される「家内制手工業」に見るような中小組織が殆どでしょう。
確かにサラブレッドの生産もそのような業態のひとつかもしれませんが、いかんせん、今日の社台グループの各ファームの規模はそのような家内制の枠を大きく飛び越えています。
よっぽどのビジネスにおける才覚や並外れた情熱がなければ、このような複雑に巨大化した組織を10年後、20年後も健全に運営し続けることは至難の業です。
「好きこそものの上手なれ」という言葉もあるとおり、親の指示や周囲の要請により仕方なく継いだ者は、残念ながらそこに自らの情熱を見出せないはずであり、
そのビジネスを確かな発展に導くことはまずないでしょう。仮に後継者において確かな情熱があったとしても、最近の例では大塚家具の父娘の確執に見るように、
考え方のちょっとした相違からも空中分解してしまうのです。
私の好きなジャーナリストのひとりに青木理氏がおり(今朝もTBS系『サンデーモーニング』に出演していました)、
最近文庫化された氏の著書に『安倍三代』(朝日文庫)というのがあります。
先日ラジオで青木氏は、文庫化に際してその内容を解説されていたのですが、
いかに晋三氏は凡庸かということ、そんな凡庸な人物が政治家一族の御曹司ということで、周囲が総理大臣に仕立て上げたというようなことを話されていました。
政治の世界は世襲だらけという現実を見てのとおり、凡庸な人物でも周囲がサポートすればなんとかなるものなのかもしれませんが、
サラブレッドの生産、さらにはそこから派生するクラブの運営など、特に巨大化しすぎた社台グループにおいては世襲という「まやかし」が通用するとは思えないのです。
いま、手許の資料で吉田一族の父系を眺めています。吉田善治氏に始まり、善太郎氏、善助氏、そして善哉氏と続きますが、
他方この善治氏の息子に吉田牧場を創業した権太郎氏がおり、一太郎氏、テンポイントを生産した重雄氏、
さらには現在ケンタッキーでウインチェスターファームを運営する直哉氏と続きます。
私は獣医学科の学生時代、吉田牧場で2度ほど実習でお世話になりました。その時に、重雄氏の弟であり私が最もお世話になった繁殖担当の敬貴氏から言われたことがあります。
「初代はその創業に本当に苦労した。2代目はその苦労を目の当たりに見ている。我々3代目はそれを実際に見ていないので、牧場を伸ばすかどうかは我々次第である」……と。
社台グループは現在、3代目の時代に入っています。
(2019年4月28日記)
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