進化論と創造論(米国における科学不信の現場)
現在私は2001年以降生まれの世界のGI馬を網羅した母系樹形図を作成中ですが、加筆時に各馬の血統表を眺めてみると、
明言(断言)はできないものの、どうも米国においてはポリシーがあまり感じられないきついインブリーディング配合の馬が多いような気がしてならないのです。
以前、『聖書と科学のカルチャー・ウォー 概説 アメリカの「創造vs生物進化」論争』(原著 Eugenie C. Scott 訳者 鵜浦裕・井上徹 東信堂)という本を読みました。
この本によれば、科学的な事実や法理をいくら突き付けられたとしても、人間には信念をなかなか変えられない何かがあるとのことであり、
生物は自然のプロセスにより進化してきたものの、この事実を認めることができない人は米国や西欧に驚くほど多く、
特に米国では約半数の人々が現在も頑なに生物進化論を拒んでいるとのことです。以下はこの本の序文からの抜粋です:
「生物進化論は証明されたわけではない。しかし基本的にほぼ実証されていることは確かである。
なぜなら時間の経過とともに複雑性が増すという予測が反証されていないからである」
「創造論の真の狙いは、科学や思想が真実として妥当かどうかという問題ではなく、特定の狭い信仰を維持することにある。創造論は生物進化論に脅かされていると、
支持者たちが思っているからである」
もう1冊、『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』(三井誠 光文社新書)という本を先週読み終えました。
著者は新聞社の科学記者であり、この本は米国で特派員として活動した経験談をまとめたものですが、
科学大国アメリカの地で著者の興味を最も惹いたのは最先端科学ではなく、そこに広がる科学への不信だったとのことです。
そのきっかけは、地球温暖化を「でっちあげ」と言ったトランプ氏が大統領になったことにあるとのことで、想像を超える出来事だったとのことでした。
この本によれば、米国で進化論を支持する人は2割に過ぎず(本書65頁)、また世論調査によれば、
神が過去1万年のある時に人類を創造したとの考えである「創造論」を支持する回答が38%に上り、
創造論ほどではないものの人類の進化には神の導きがあるとする回答も38%あったとのことで、
米国における人類の誕生に神の関与を認める人たちの割合は実に76%に上るとのことです(本書147頁)。
地球の歴史は46億年とされるものの、聖書によれば世界の歴史は6千年とされます。
教会に頻繁に行く人ほど科学への信頼が低下していて、神が人類を創造したとする「創造論」を信じて「進化論」を認めない傾向があるとのことであり、
宗教の中でも「福音派」と呼ばれるキリスト教のグループが特に科学をよく思っていなく、福音派は共和党の支持基盤でもあり、
2016年の大統領選では福音派の81%がトランプ氏に投票したとのことです(本書100〜101頁)。
ちょっと重い話になってしまったので、サラブレッドの話に戻しましょう。
セレクトセールの盛況に見るように、日本産のサラブレッドのレベルは世界的にも十分に認められるようになりました。
しかし、依然日本では海外の血を実質以上に過大評価している部分も否めないと思います。
そんな中で、私はふと、上述のような米国の現状において米国産のサラブレッドの質は総合的にどうなのか? なんて思ってしまったのです。
サンデーサイレンスのような馬を見ると、やはり米国産の馬は凄いな……などと思ってしまうのですが、米国の生産頭数は他国に比べて突出しています。
要するにこれは、その多大な母数からは当然の結果として素晴らしい馬がそこそこ輩出される一方で、
底辺にさまよう馬の数も膨大ということも意味しているわけです。つまり、ざっくばらんな言い方になりますが、全生産馬の能力の平均値において、
当然のことながら米国産のサラブレッドの値が相対的に高いわけではないはずです。
あくまで私の勝手な解釈であることを断っておきますが、上述のように、科学的裏づけのあるポリシーが足りないと見受ける配合が多く、
更には上述のような科学論争が不合理に根深い米国の生産界に対して、日本の生産界は確実に打ち勝っていけるのではないか? と私は思い始めているのです。
特にノーザンファームの今日の繁栄は、データに基づく確かな科学的な探究の成果ではないかと私は感じています。
ノーザンファームには日本の生産界の尖兵として更なるものを期待しますし、これに続く新進気鋭の牧場の出現も望みたいところです。
(2019年6月16日記)
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