セレクトセールの上市馬のリストを見ながら……
来週の月曜と火曜に、このコロナ騒動の中で今年もセレクトセールが開催されます。
本コラム欄ではここのところエピファネイアやモーリスの産駒におけるサンデーサイレンスのインクロスのことに触れてきたので、
今回上市されているこれら産駒のインクロス状況をチェックしてみました。左側の数字が上市総数、右側がサンデーの3×4(または2×4)を持つ馬の数です。
エピファネイア
(1歳) 9 9 (100%) このうち1頭は2×4
(当歳) 13 9 (69%)
モーリス
(1歳) 14 10 (71%)
(当歳) 8 7 (88%)
まあ、予想どおりです。一方、ここまでくるともう少し母数を増やしてチェックしたくなり、いま手許にある 『スタリオンレヴュー2019』 で、
これら2頭の2018年の種付状況(つまり現在の1歳)を徹底的に調べてみた結果が以下です。
エピファネイアの種付数 220 におけるサンデーのインクロス数
(2×4) 2 (1%)
(3×4) 145 (66%)
(4×4) 26 (12%)
173 (79%)
モーリスの種付数 245 におけるサンデーのインクロス数
(2×4) 3 (1%)
(3×4) 155 (63%)
(4×4) 20 (8%)
178 (73%)
上記は、以下の画像とおり手作業でチェックしました。
エピファネイアの状況
モーリスの状況
マーカーの色は、橙が2×4、黄が3×4、桃が4×4ですが、異常なまでに黄色で埋め尽くされています。
つまり、ほとんどがサンデーサイレンスのインクロス持ちで、全体の6割超が3×4です。
エピファネイアもモーリスも 「金太郎飴製造ロボット」 と化していることにあらためて唖然とします……。
重ね重ねですが、私はサンデーサイレンスのインクロスそのものを問題視しているのではありません。
生産界全体が単一思考に席巻されても疑問を抱く声がほとんど聞こえてこない現実に対して、生物学の観点から危惧を抱いているのです。
量産された金太郎飴ながらも、その中には他とは違う優れた 「味」 を出すものがいることは確かでしょう。
しかし、包括的な成績低迷リスクが相対的に高まるのも確かです。要するに、生産界全体がこのような配合に傾倒すること自体が究極のギャンブルなのですが、
もしも生産者各位がそのような状況をギャンブルとも認識できていないとしたなら非常にリスキーに感じるわけです。
今日の世界のサラブレッドのほとんど(すべて?)は、例えばノーザンダンサー、ネアルコといった世界の競馬史に名を刻む偉大な種牡馬の血を幾重にも保有しています。
これら昔の名馬の血は既に薄くなっているので看過に値するかもしれませんが、その一方で、
近年のありとあらゆる名馬の血を上塗りするかのごとく幾重にも幾重にも重ね合う速度が近年は昔とは比べものにならないくらい高まっているわけで、結果、
著しい近交係数上昇や遺伝的多様性低下の原因となっています。
ところで、ディープインパクトとハーツクライの2018年の種付状況は こちら と こちら ですが、
エピファネイアやモーリスと違って横文字血統の牝馬が多数であることが一目瞭然です。
よって、生産する立場の者の言い訳に 「エピファネイアやモーリスにそのような舶来牝馬のパイを回せないんだ」 というのもあるかもしれませんが、
その残ったパイをあてがうと一律にサンデーのインクロスになってしまうのだとすると、
それは既に日本の生産界の遺伝子プールは危機的状況に陥っていることを意味します。
九州を中心とする大雨による河川の堤防決壊により街や住宅が浸水する映像を先週から見ていて心が痛むのですが、ふと思ったのです。
こんな喩えをしたら叱られそうですが、日本の生産界の 「血の堤防」 が決壊してエピファネイアやモーリスに流れ込んでいるのではないですか?
そんなこんなの今日、ようやくモーリス産駒の中ではカイザーノヴァが初勝利のようですね。とりあえず関係者は胸をなでおろしたところでしょうか。
(2020年7月11日記)
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