XファクターとSF(サイエンスフィクション)

拙著では疑似科学的な血統理論について色々と書きました。その中で、グローバルに浸透している「Xファクター」を論説しましたが、その補足をしたいと思います。 この理論の主な問題点は以下の3つに集約されます。

@雌の生体において、X染色体の1つは不活性化されるという生命現象を無視してしまっている。
A雌では2本あるX染色体は相互に一定部分が組換わる(交差する)という生命現象を無視してしまっている。
B18世紀や19世紀のみならず20世紀前半においても血統記録の正確性は甚だ怪しく、何百年も前の血統記録をベースに Darley ArabianやEclipseから継承したX染色体を論じるには無理がある。

<@について>
X染色体の1つは不活性化されることは拙著に詳述したので、ここでは割愛します。Xファクターでは、ダブルコピーと称する牝馬の意義を力説していますが、 ダブルコピー牝馬自体の心臓が大きいとか競走成績が秀逸とまでは述べていないかもしれません。 しかし、雌の生体においてX染色体の1つは不活性化されるという現象を適切に理解していれば、特殊なX染色体を2つ持つことをダブルコピーと呼んだり、 X染色体の伴性遺伝の重要性を論述する際にこのような言葉を用いることはありえないでしょう。双方のX染色体とも秀逸であれば、その仔は例外なく秀逸なものを受け継ぐ、 ただそれだけの話です。ところで、X染色体の不活性化に関連する遺伝に三毛猫の毛色があるのですが、これはちょっと複雑なので、別の機会にしたいと思います。 (こちら

<Aについて>
これはこの理論が最も科学的に致命的な点です。拙著にも書きましたが、2つあるX染色体の「一定の部分」では相互に組換え(交差)が起こります。 組換わった後のX染色体が新たな2本となって生命体に作用しますが、Xファクターはこの生命現象を全く無視しています。 ちなみにネットで「Xファクター」で検索すると、この理論がかなり広く信じられていることが分かります。 しかし、残念ながら「組換え」という生命現象に気づいていない(ご存知ない)方がほとんどのようです。

<Bについて>
血統記録の不確かさも拙著に詳述したのでここでは割愛します。もしも、Xファクターで多々引用している過去の名馬の血統記録に誤りがあることが最新のDNA解析で証明されたなら、 Xファクターという理論は根底から崩れます。ちなみに、8代前くらいまで遡る血統理論もありますが、その理論についても同じことが言えます。

Xファクターの提唱者のマリアンナ・ホーン氏は、もしかしたらSFを書くようにこの理論を軽い気持ちで発表したのかもしれません。 しかしあまりに反響が大きく、書籍の売れ行きも非常によかったので、もう引き返せなくなってしまったのでしょうか? 私はそんなことを想像しています。

(2017年12月20日記)

上記A中の言い回しですが、以下に読み替えください。
「……となって生命体に作用しますが」⇒「……となって、この各々がその仔に受け継がれますが」

(2024年10月21日追記)


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