三毛猫におけるエピジェネティクス
三毛猫は基本的にメスのみです。一部オスもいますが、これは性染色体が XXY と異常になった個体などで発生する現象です。
雌はX染色体を2本持ちますが、三毛猫は、2本のX染色体のうちの1つは茶色にする遺伝子を、もう1つは黒色にする遺伝子を持っています。
生物の雌において、その1本は不活性化されることは拙著には詳述しましたし、
本ウェブサイト中の「XファクターとSF(サイエンスフィクション)」にも書きました。
このように1本が不活性化される(遺伝子の作用発現が抑制される)という生命現象こそ、これも拙著で詳述した「エピジェネティクス」です。
しかし、それだけでは三毛猫の毛色の発現メカニズムの説明にはなっていません。三毛猫は、白色にする遺伝子を常染色体上に持っています。白色以外の部分において、
茶色にする遺伝子を持つX染色体が不活性化した皮膚の部分の毛は黒色に、黒色にする遺伝子を持つX染色体が不活性化した部分は茶色になっているのです。
受精後の発生の初期段階に、どっちのX染色体が不活性化されるのかが一旦決定されると、この決定は細胞分裂を通じても維持されるので、
その決定に応じた各々のX染色体に基づく細胞の集まりが茶色や黒色の「斑(まだら)」として独立して発現し、結果、三毛猫の魅力ある毛色が出現するわけです。
よって、2つのX染色体がダブルに効果を発現するという血統理論があったなら、科学的に逸脱しているということが三毛猫の毛色の遺伝からもよく分かりますよね。
ちなみに私は、三毛猫の毛色の遺伝様式について著名な先生方の書物をいくつか読んだものの理解しきれない部分がありました。
その中で最近読んだ『エピジェネティクス入門 三毛猫の模様はどう決まるのか』(佐々木裕之 岩波書店)の説明が非常に簡潔で分かり易く「なるほど」と思ったものです。
このことから、少々難解なことを伝えるには、要点をはずさずに分かり易い言葉でシンプルに書くのが肝要であるということを私自身痛感しました。
(2018年1月16日記)
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