情報化社会の落とし穴

拙著『サラブレッドの血筋』の初版(2016年4月発行)で、日本軽種馬協会が発行する機関誌『JBBA NEWS』に掲載された 2015年の英国チヴァリーパークステークスの勝馬 Lumiere の情報がおかしいことを指摘しました。何がおかしいかと言えば、この馬は芦毛なのに、 掲載されていた血統表では両親とも非芦毛となっていたのです。

遺伝の法則上、芦毛馬は両親のいずれかが芦毛であることが絶対条件なので、もしもこれが事実なら、突然変異で白毛が生まれた時のように一大ニュースになるべき話ですが、 何の騒ぎも起きませんでした。よって私は Lumiere が芦毛という情報が間違いかと思って、このレースの動画を探して見てみると、この馬は非常に綺麗な芦毛でした。 そうすると……、父親の Shamardal は鹿毛であることは確からしいので、種牡馬取り違えがない限り、母親の Screen Star は必然的に芦毛ということになります。

しかし『JBBA NEWS』のみならず、日本軽種馬協会が運営の私自身最も利用させて頂いている『JBIS-Search』、更には殆どの海外のサイトにおいても、 母親の Screen Star の毛色は申し合わせたように全て「栗毛」となっていたのは驚きました。正しく「芦毛」と記載していたのはジェイエス発行の『フューチュリティ』ぐらいです。 昨年(2017年)9月に発行の拙著第2版でも本件を再度指摘しましたが、この時点でも私が利用させて頂いているサイトで修正されたものはありませんでした。

つまり、これらサイトは全て同じ情報源に頼っていることを物語っており、発信元が故意であれ過失であれ誤った情報を流したならば、 何の疑いもなく事実として扱われてしまうことを意味します。これは、情報化社会となった21世紀において、サラブレッドの血統の話のみならず世の中の全ての分野において、 いとも簡単に情報操作はされうる危険性が増しているということも意味します。先週書いた「真実を見極める確かな眼を」ではデマのことに触れましたが、 まさしくそれです。

血統界の広辞苑でもあり百科事典でもある(?)英文の『競走馬ファミリーテーブル』でさえ、両親とも非芦毛なのに芦毛と記載されている馬がいくつか見つかります。 拙著中にも書きましたが、2015年のオーストラリアのGIレース The Galaxy の勝馬 Sweet Idea の7代母 Brigg Fair(1943年生)は芦毛となっていますが、 その父 Pink Coat は栗毛、その母 Stourbridge Fair は鹿毛です。

ちなみに、私が多々利用させて頂いているサイトは以下です:

@ http://www.jbis.or.jp
A http://p.bogus.jp
B https://www.pedigreequery.com
C https://www.equineline.com/Free-5X-Pedigree.cfm

改めて上記各サイトにおいて「Screen Star」で検索してみると、Bにおいては毛色は「gr.」、つまり「芦毛」にようやくなっていました!  でも、これを書いている2018年7月1日現在、他のサイトはいまだに「栗毛」のまま……。

(2018年7月1日記)

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