ディープインパクトのブランドに依拠する社台グループの課題
以前書いた「何が社台グループを成長させたのか?」の続編です。
今年のセレクトセールも盛況のようでした。落札額が1億円以上の馬は38頭であり、
そのうちディープインパクトの産駒は16頭(42%)でした(ちなみにキングカメハメハ、ハーツクライの産駒はともに6頭)。
相変わらずのディープインパクト人気であり、彼がいてこそのセレクトセールとも言えますね。
しかし、今回の取引結果の落札額一覧を見て、やはり私は違和感を抱いてしまうのです。
競馬サークルにとってこのような盛況は好ましいことではありますが、こんな浮世離れしたことが延々と続くのでしょうか?
今回の落札最高額はリアアントニアの当歳で2億9千万円とのこと。言わずもがなですが、父はディープインパクト。確かにリアアントニアは米国のGI馬ですし、
その産駒の馬体が良ければ高額取引は必至でしょう。けれども、初仔がデビュー前で、この血が日本の競馬への適合性があるかも全く分からなく、
近親もとびきり活躍馬が多そうではない状況下で、この落札額は通常では首をひねります。社台グループが輸入した海外名牝の殆どはディープインパクトを配合していますが、
「父はディープインパクト、母は海外のGI馬」というブランドがいかに落札額を底上げしているか……。
このような顧客に現在の社台グループが支えられているのであれば、まさしく砂上の楼閣です。
とは言っても、若駒の購買価格に確かな意味などありません。どんな取引においても、購買層の個人的な思い入れが購買額を決めているわけですから。
でも、血統、馬体、その他諸々に関する購買層のごくごく個人的な嗜好のみで(盛況を牽引する)価格が決まっているのなら、
そんな状況が延々と続くと関係者が楽天的に信じ込んでいるとしたなら、非常な危なさを感じませんか?
今期のディープインパクトの種付料が4000万円ということが一時話題になりました。
「何が社台グループを成長させたのか?」のところで私は、
社台グループはトップクラスの生物学者や統計学者とタイアップしていると考えるのが自然ではないかと述べましたが、ふと思ったのです、
ブランド(知的財産)の専門家とも社台グループはタイアップしていると考えるのも自然でしょう。
例えば、下手に安価にすればブランド価値を低下させてしまう、でも、あまりに高額に設定して周囲が寄りつかなくなれば何の意味もない……というような視点から、
専門家があくまでも建前たる「公示価格」を設定していると考えるのが自然です。至宝種牡馬の種付料であればなおさらです。
しかし、もしもですよ、本当にもしも社台グループは自己の経営においてそのような専門家とタイアップしていないとしたなら、あまりに無頓着であり、
すぐに先は見えてしまうと思います。そんなことは絶対にないとは思いますが。ただ、どんな専門家でも、将来を見通したベストな回答など導き出せはしないことも確かです。
そして……ディープインパクトは永遠に生き続けるわけではないことも確かです。
世界に名を馳せた名門牧場の凋落の例はいくつも見てきました。競馬はギャンブル……しかし私はサラブレッドの生産こそ究極のギャンブルだと思っています。
ギャンブルには正解というものがない。だからこそ、可能な限りのリサーチをして、できる限りのリスクを排除しながら前へ進んでいく必要があります。
そのリサーチですが、生物学、統計学といった科学的な側面と、上述のような知的財産的な側面からのアプローチのバランスも肝要だと考えます。
特に社台グループのような巨大化した組織は「質量」が高くなってしまっていますから、どこか1つでも手を抜くと、いとも簡単にその「楼閣」は傾くでしょう。
(2018年9月16日記)
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