何が社台グループを成長させたのか?

俗に「社台グループ」とは言いますが、社台ファームとノーザンファームは全くの別組織でカラーも全然違うと聞きます。 よって、一緒くたに論じるのは適切ではないかもしれませんが、ここでは便宜上、包括的に論じさせて頂きます。

このグループが日本を代表する生産組織になってどれくらい経つのでしょうか。日本の各種大レースは「社台の運動会」とも揶揄されますが、 吉田善哉氏悲願のダービーを初めて制したのが1986年のダイナガリバーです。戦後の草分けの時期以降、 順風満帆には程遠い紆余曲折の連続だったことは吉川良氏の『血と知と地』(ミデアム出版社およびMYCOM競馬文庫)からも窺え、 ノーザンテースト、サンデーサイレンスの成功もあり、この20〜30年で急速に成長したことが分かります。

この成長、確かに運もあるでしょう。しかし運だけではここまで成長するはずがありません。 或る意味でドライすぎるほどの「馬」「競馬」「勝利」への執着心が今日のグループを築き上げたと言っても過言ではないでしょう。 さらに言えば「商才」、つまり優れたビジネス感覚も持ち合わせていたのだと思います。

もうひとつ、私は思うことがあります。社台グループは確かな生物学的アプローチをしてきたのではないかということです。 当たり前の話ですが、競馬は動物が相手(というより主役)です。つまり、馬という「動物」、ひいては「生物」を突き詰めないと成長も成功もありえないのです。 「馬体」と「血統」はサラブレッドという生物の能力を判断する上での双璧のようなものですが、前者についてはグループのスタッフの造詣の深さは言うまでもないでしょう。 では後者、つまり「血統」についてはどうでしょうか?

考えてもみて下さい。天下の社台グループです。配合の模索においても、トップクラスの生物学者や統計学者とタイアップしていると考えるのが自然ではないでしょうか? 私は以前から、競馬サークルにおける「遺伝」の科学的理解が非常に遅れている旨の発言を繰り返しておりますが、 社台グループだけは生物学、統計学のブレーンを最大限に活用してきたからこそ今日の姿があるのだと推察しております。

このコラム欄で、前々回前回と近親交配(インブリーディング)の話を私は書きましたが、 ここにあるような遺伝の基本的な話は、本来であれば今さら指摘するような話ではありません。しかし、残念ながら、 依然生産界においても生命現象のベースたる「遺伝」についての誤解が多いのが事実であり、この側面からだけ見ても益々社台グループとの格差が拡大する懸念があります。 ちなみに、拙著『サラブレッドの血筋』では社台グループ生産馬と非社台グループ生産馬の近親交配の度合いについて「有意差」が見られた統計解析結果を掲載しましたが、 ここからも社台と非社台の相違が垣間見れます。

「情熱」「運」「商才」といった成長に対する必須要素を吉田一族は備えていた……というのは確かですが、 この一族はそこに安直に留まることなく上述のような生物学的アプローチも必須要素の1つだと十分に理解して、 これら各要素を最大限に活用させる「バランス感覚」が卓越していたのだと、私は勝手ながらも思っているのです。

(2018年7月28日記)

戻る