ブランドに振り回される生産界

一昨日から昨日の1泊で、初めて青森の馬産地を訪問してきました。訪問先では現場の貴重なお話を数多くお聞きすることができ、この場を借りて改めてお礼申し上げます。 そこで、今回の訪問でちょっと思ったことを書きたいと思います。

現在はサラブレッドの生産は北海道がメインです。 しかし、日本におけるサラブレッド生産は、例えば小岩井農場、下総御料牧場などが輸入した優秀な繁殖牝馬が大きなベースとなったことはご存知のとおりです。 また、殊に青森については、トサミドリ、ヒカルメイジ等を輩出した盛田牧場の栄華が当時を如実に物語っています。それを思うと、現在の本州内での生産の実情は、 今さらながらですがかなり寂しい思いがします。

今回、日本軽種馬協会の七戸種馬場にも訪問させて頂き、繋養されているアルデバラン、デビッドジュニアにも会ってきました。 米国産のアルデバランはメトロポリタンH等のGIを3つ勝ち、2003年のエクリプス賞最優秀スプリンターに選ばれています。また、同じく米国産のデビッドジュニアも、 ドバイデューティーフリー等のGIを3つ勝ち、当時は芝のレースの最強馬との評価を受けました。そのような素晴らしい競走成績の馬が七戸にいるということは、 あまり言いたくはないのですが「都落ち」です。しかしその都落ちは、残念ながら決して正当な評価を受けてのものではありません。例えばデビッドジュニアについては、 その血統は現在の人気トレンドから大きく外れていることが敬遠された要素の1つなのでしょう。

前回書いた「ディープインパクトのブランドに依拠する社台グループの課題」でも触れたように、現在はブランドの影響力が多大であり、 特に社台グループのディープインパクトのブランド力増強操作は見事としか言いようがありません。或る日高の著名な生産者が、 「ディープインパクトは肌馬を選ぶが、サンデーサイレンスは選ばなかった」と言っていましたが、まさしく同感です。 肌馬を選ばなかったということではステイゴールドもそうだと言えそうですが、ディープインパクトの優秀産駒は総じて母系が優秀なのは一目瞭然です。 しかし、依然母系より父系ばかりに目が行く競馬サークル。優秀なディープインパクト産駒はあたかも父譲りと評価されるよう情報操作がなされているような気さえします。 そして評価はウナギ登り、今年の種付料は4000万円也!

デビッドジュニアはディープインパクトと同い年、競走成績にしても決して引けを取りません。しかし年間種付頭数は1桁で、今年の種付料は10万円…… ディープインパクトの400分の1です。繰り返します、400分の1ですよ! あくまで私の個人的な無根拠な意見ではありますが、 もしもディープインパクトと交配している優秀な牝馬群をそのままデビッドジュニアに回しても、同じくらい優秀な産駒が生まれるような気がするのです。 私にはこの極端な値の差の意味がサッパリ分からないのです。ただ、ひとつ言えることは、日本軽種馬協会のブランド戦略があまりに拙いということも確かでしょう。

今回の訪問時、馬房からデビッドジュニアを出して頂きました。目の前の垢抜けた栗毛の流星に向かって、私は心の中で 「まだ若いのだから、あんな根拠に乏しいブランド戦略に絶対に負けるんじゃないぞ!」とささやいたと同時に、 各馬がもっと的確な評価を受けるよう、ひいては確固たる考えを持って配合を模索している生産者がきちんと評価されて生き残っていけるよう、 僭越ながらも私なりの啓発活動をし続けねばと思いました。そして、北海道が生産の中心になった現在ですが、 青森にはまだまだ優れた血筋がたくさんあることも念を押しておきます。近いうち、また改めて訪問させて頂きます!

(2018年9月24日記)

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