なぜ特定の牝系から多くの活躍馬が出るのか?(その7)

先週土曜の英ダービーを勝った Anthony Van Dyck(父 Galileo)も、その翌日の仏ダービー(ジョッケクルブ賞)を勝った Sottsass(父 Siyouni)も、 異父きょうだい(半姉)にGI馬がいることに気づきました。前者の姉はニュージーランドのレイルウェイSを勝った Bounding(父 Lonhro)、 後者の姉はブリーダーズカップフィリー&メアターフ等のGIを4勝している Sistercharlie(父 Myboycharlie)です。

本コラム欄では何度も母系の重要性を説いてきたので既に食傷気味かと存じますが、 今回の英仏ダービーの結果を見て、この話を避けることはできないと思いました。 特に Anthony Van Dyck(愛国産)の姉 Bounding は豪州産であること、また、勝ったGIも1200メートルの短距離戦であることに、何か奥深いものを感じてしまうのです。

繰り返し書いていますが、繁殖牝馬が生涯に産める仔の数はせいぜい10頭余りです。 しかし超一流種牡馬に超名牝を10数頭ほど選抜して種付けをしても、その中から複数のGI馬が出ることなどイメージできません。 同じ種牡馬を相手に複数のGI馬を産むだけでもあまりに凄いことなのに、違う種牡馬を相手に複数のGI馬を産むことの意味……。

現在私は2001年以降生まれの全世界のGI馬を網羅した母系樹形図を作成中であり、まだ加筆半ばなのですが、 現時点で加筆済みの手許の樹形図におけるそのような「違う種牡馬を相手に複数のGI馬を産んだ繁殖牝馬」を探し出してみたのです。すると、115例も見つかりました。 普段、機械的に樹形図を書いている身として、こんなに多数いたのかという驚きです。 まだ加筆半ばであるため、最終的にはこの倍くらいの数になるかもしれません。

実は、今回のコラムでは現時点で探し出した全てを挙げてみようかと思っていたのですが、ここまで多数だったのか……と唖然とし、 とりあえず1号族だけ以下のとおり列挙してみます(c は牡、f は牝、g はセン):

母 Baby Rafaela 栗 1992 ( 1-a 族)

  Immortelle 栗 2003 (BRZ) f (父 Vettori)
  Princess Zuca 鹿 2004 (BRZ) f (父 Dubai Dust)

母 Grecian Gale 鹿 1991 ( 1-c 族)

  Malteme 鹿 2002 (SAF) g (父 Rakeen)
  Wendywood 鹿 2004 (SAF) f (父 Fort Wood)

母 La Gran Portada 芦 1995 ( 1-e 族)

  Life of Victory 栗 2002 (ARG) c (父 Incurable Optimist)
  Leading the Way 芦 2006 (ARG) f (父 Brancusi)

母 Frappe 鹿 1996 ( 1-e 族)

  Power 鹿 2009 (GB) c (父 Oasis Dream)
  Curvy 鹿 2012 (GB) f (父 Galileo)

母 Claba di San Jore 芦 1999 ( 1-e 族)

  Jakkalberry 鹿 2006 (IRE) c (父ストーミングホーム)
  Crackerjack King 芦 2008 (IRE) c (父 Shamardal)

母 Silk and Scarlet 鹿 2002 ( 1-l 族)

  エイシンアポロン 栗 2007 (USA) c (父 Giant's Causeway)
  Master of Hounds 鹿 2008 (USA) c (父 Kingmambo)
  Minorette 栗 2011 (USA) f(父 Smart Strike)

母 Temple Spirit 鹿 2000 ( 1-l 族)

  Temple of Boom 鹿 2006 (AUS) g (父 Piccolo)
  Spirit of Boom 鹿 2007 (AUS) c (父 Sequalo)

母 Helsinge 鹿 2001 ( 1-p 族)

  Black Caviar 黒 2006 (AUS) f (父 Bel Esprit)
  All Too Hard 鹿 2009 (AUS) c (父 Casino Prince)

母 Binche 栗 1999( 1-p 族)

  Proviso 鹿 2005 (GB) f (父 Dansili)
  Byword 栗 2006 (GB) c (父 パントレセレブル)

母 Sweet Speech 鹿 1999 ( 1-s 族)

  Patola 栗 2006 (ARG) f (父 High Yield)
  Smart Choice 鹿 2013 (ARG) f (父 Grand Reward)

母 Rosie's Posy 鹿 1999 ( 1-s 族)

  ドバウィハイツ 鹿 2007 (GB) f (父 Dubawi)
  Make Believe 鹿 2012 (GB) c (父マクフィ)

母 Periza 鹿 1994 ( 1-w 族)

  Patakuza 黒 2002 (CHI) f (父 Columbus Day)
  カサブランカスマイル 鹿 2006 (CHI) f (父 Ocean Terrace)
  Stormy Impact 黒 2008 (CHI) c (父 Storm Warning)

母 Don't Trick Her 栗 2001( 1-w 族)

  Check the Label 黒 2007 (USA) f (父 Stormin Fever)
  Include Me Out 黒 2008 (USA) f (父 Include)

なお、しつこいようですが、オリエンタルアート、ジョコンダ、ラヴズオンリーミーのように同じ種牡馬を相手でも複数のGI馬を産む牝馬も同様に偉大であり、 これらを含めると一体その数はどのくらいになるのでしょうか。

新たに繁殖牝馬の購買を検討されている生産者の方々においては、複数のGI馬を出す繁殖牝馬の近親に触手を伸ばすことに確かな意味がありそうです。

それにしても、拙著第3版ではこのような繁殖牝馬のリストアップを予定してはいるのですが、あまりの膨大な数で、かなりの作業になりそうで、ちょっと気が滅入ってきました……。

(2019年6月9日記)

なぜ特定の牝系から多くの活躍馬が出るのか?(その8)」に続く

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