水面下で行われているであろう様々な遺伝子解析

これがノーザンファームの独り勝ちの理由か?」 で書いた社台スタリオンステーションにおける採血の話を、今回はもう少し掘り下げて考察してみたいと思います。

まず、ごくごく基本的な気になる問題点を整理すると以下になります:

@社台SSの問題点 ⇒ 各生産者に採血の理由を告げない
A各生産者の問題点 ⇒ 採血の理由を訊かない(何も疑問に思わない)

この採血は、或る獣医師が立ち会ったときにだけ行われるらしいのですが、@についてはやはり、理由を告げずに採血をすることは当然のことながら倫理的に疑問が残ります。 一方のAについては、牝馬を持ち込んだ生産者各自がその行為に対して何も言わなかったのなら、 これは法的に言えば 「黙示的了解」 となり、その行為に合意したことになります。

つまり、どっちもどっちではあるのですが、しかし、ふと思うのです。 海外や外資の生産者も社台に種付けに来ることがあるでしょうが、その牝馬においても、理由も告げずに採血をしていたのでしょうか? もしもそうだとしたら、「Tell me why you take blood!!」 と言われてしまうのではないでしょうか?

ところで、或る方面から社台のスタッフにこの採血の件を照会したところでは、 「プロジェステロン(黄体ホルモン)の値を検査しているだけで深い意味はない」 との回答だったとのことです。

しかしです、この回答には新たな疑問が湧きます。種付けに連れていった牝馬の当日のホルモンの状態が好ましくなくとも、種付けしないで帰ってもらうなんてことはないでしょう。 その検査結果を待ったうえでないと種付けを行わせてもらえなかったなんてこともなかったと思います。

また、種付けに適した状態かの確認のホルモン検査ならば、なぜ持ち込まれた牝馬全てから採血を行わず、或る特定の獣医師が立ち会ったときだけ行うのでしょうか? さらに言えば、「ホルモン検査だけであり深い意味はない」 とのことだったようですが、ホルモン検査には深い意味はないのでしょうか?

ホルモン検査自体も、そのデータを蓄積すれば、ビジネスにおける立派な武器たる 「ビッグデータ」 になりうります。 いずれにしても、そんなに沢山の血液サンプルは究極の 「宝」 です。 しかし、もしも本当に、その血液はホルモン検査だけに使って廃棄していたならば、 日本のリーディングブリーダーたるものが宝を宝と認識できていないということを意味し、 これは、「日本の生産界」 は科学的に他国から完全に立ち遅れてしまっていることさえも意味します。

もしも、本当にもしも、社台がその血液をホルモン検査だけに用いていたなら、 私なら 「そんなことで益々熾烈になる世界の生産界と闘っていけるとでも思ってるのか!」 と一喝します。 仮にそれがいわくつきで採取した血液であったとしても、秘密裡に徹底的に遺伝子解析をするくらいでないと、今後、世界で渡り合ってはいけないでしょう。 少なくとも私が社台の人間であれば、その採取経緯がどうであろうと、それだけ沢山の被検サンプルがあるのなら、遺伝学者や統計学者を内密に抱き込んで科学的解析を徹底的にやります。 これはごくごく当たり前のことだと思うのです、ビジネスなのですから。

日高でも、サラブレッドの能力を遺伝子レベルで解析するために、研究者たちが公に採血して研究しているという話を聞きます。 生産者には海外の遺伝子分析会社からの営業話も度々来ているようですし、遺伝子解析競争は既に始まっているのです。

確かに、私は深読みをしすぎているのかもしれません。 しかし、生産者を含めた関係者に社台の採血の話を振ってみると、そんなことまでやってないだろうという反応も少なくなく、 私自身ちょっと面食らっているのが正直なところです。繰り返しますが、益々熾烈になる生産界です。 幸か不幸か科学は日進月歩であり、遺伝子関連の研究の進歩は凄まじいものがあり、そのような感覚のままにこの世界で生き残るのは至難なような気がします。

初年度産駒がデビュー前なのに、なぜあのような種付料が設定されたのか? 初年度産駒がデビュー前なのに、なぜあのような著名種牡馬を日本に輸出したのか?

これらも、もしかしたら、入念な遺伝子解析に基づいてのものかもしれません。

(2019年12月1日記)

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