これがノーザンファームの独り勝ちの理由か?
昨年に続き今年も日高を訪問し、昨夜帰宅しました。
今回も生産者の方々から色々なお話をお聞きすることができ、生産の現場に足を運ばないと生の情報は得られないことを痛感します。あらためて御礼申し上げます。
その中で今回、面白い話を耳にしました。社台スタリオンステーションに種付けのために牝馬を連れていくと、何も理由を聞かされずに血液を採取されるというのです。
受胎に適した体調やホルモン状態であるかの確認かな?……なんて思うのが普通でしょうが、私はこれを聞いて 「アッ!」 と思ったのです。
彼らは、持ち込まれた繁殖牝馬の遺伝子解析をやっているのではないでしょうか?
以下、あくまで私の推察であることをお断りした上で、今回はこれについて論じてみたいと思います。
各種ビジネスの領域において、「ビッグデータ」 を制する者が市場を制するとも言われます。例えば、交通系ICカードの代表格であるJR東日本の 「Suica」。
Suica利用者個々の行動パターンを端末から吸い上げたデータをJRが売買の対象としていたことが、以前大きな社会問題となりました。
われわれ人間のこのような情報は、倫理面のみならず法律(個人情報保護法)との関係も微妙なものがあります。
一方で、馬の場合はどうでしょうか? 幸か不幸か、そのような制約はありません。
以前、こちら でも書かせて頂いたとおり、天下の社台ですから、
配合の模索においてもトップクラスの生物学者や統計学者とタイアップしていると考えるのが自然です。よって、種付けに来て血液を採取した各牝馬について、
「このような血統背景で、このような成績の近親がいて、さらに血液検査の結果がこのような遺伝子構成の牝馬だから、本来はこんな系統の種牡馬が良かったのではないのか?」
といったようなフォローアップの議論が日々徹底的にされているのではないでしょうか? ちなみに人の場合の遺伝子情報は究極の個人情報であることは言うまでもありません。
考えてもみて下さい。社台 (のスタリオンステーション) にしてみれば、自らの所に、それこそ沢山の牝馬が次々とやってくるのです。通常のビジネス感覚を持つ者であれば、
当然のことながら、そこから有用な科学的な解析がやり放題だということが自ずと分かるはずです。また、遺伝子関係の生物学者であれば、調査できるサンプルのあまりの多さに、
心が躍り続けるのではないでしょうか? つまり彼らから見たら、「カモがネギしょって次々とやってくる」 のです。
繰り返しますが、昨今のあらゆるビジネス分野において、データを制する者が勝者となります。
上述のような遺伝子データのみならず各種のデータを駆使した結果、独り勝ちの大成功を収めたのがノーザンファームなのではないでしょうか?
「では、社台ファームは?」 とも思うところでしょう。
今回の日高訪問でも、生産者各位が感じる率直なノーザンファームと社台ファームの違い(或る意味で 「勝己氏と照哉氏の違い」 )についても色々と訊いたのですが、
その結果をまとめれば、社台ファームという組織は 「科学的データ」 を軽視してきたのではないかということです。
以前書いた こちら のコラムで私は照哉氏の発した或るコメントに疑問符を打ちましたが、
色々と聞き取りをしていくと、どうもあらゆる面で社台ファームはそのような面があるように感じざるを得ないのです。
そしてそれがノーザンファームの独走を許した最大の理由である気がしてならないのです。
種牡馬や繁殖牝馬の能力は数年ごとの周期で活性化されるというようなオカルトにも近い血統論をいまだ信じている中小の生産者もいると小耳に挟みましたが、
最先端科学の 「ゲノム編集」 のような行為が実践されつつある現代において、全くもって不思議な話です。
そんなことも思い浮かべながら今回日高を歩いて、巨大化かつ強力化した組織を相手にどのように振る舞っていくべきなのかについて想いを巡らせました。
率直に言えば、何も答えは見つかっていません。しかし、このような寡占化が益々加速するようでは、競馬界がおかしくなるのは間違いありません。
「自分自身にできることは何か?」 とあらためて問えば、遺伝的側面からの科学的サポートということになるわけで、引き続き頑張るしかないと思っています。
今日は 「ノーザンファーム繁殖牝馬セール2019」 が開催されています。もしかしたら、彼らは、表面上の血統、馬体、競走成績からだけでは判別できない遺伝子情報も駆使して、
自らに残しておくべき繁殖牝馬か否かの選別を行い、その 「ふるい」 から落ちてきた牝馬を今日のセールに上場しているのではないか?
……などという想いさえも巡らしてしまったところです。
(2019年10月22日記)
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