その血を残す意味

こちらにある 「トウカイテイオー後継種牡馬プロジェクト」では、 目標金額を大きく上回る支援が集まったとのことです。当初このプロジェクトを知った際は果たして成功するのだろうか? ……と正直なところ思っていましたが、それだけ応援するファンや関係者がいたということで、これは素晴らしい話ですね。

その一方で、今般のプロジェクトに関する一部のメディアの記事には 「トウカイテイオーの血が絶滅寸前」 などと喧伝したものもあり、 「父系が途絶えること = 血の絶滅」 と誤解されてしまっていることに少々残念な気持ちにもなりましたし、 もしもこのプロジェクトが 「その父系を残す」 という部分だけが先行してしまうようなら、ちょっと複雑な想いもしてきます。

こちら にも書いたとおり、オーストラリアに移籍して現地でGIを2勝したブレイブスマッシュは現地で種牡馬入りしましたが、 その母の父はトウカイテイオーです。 ブレイブスマッシュが種牡馬として活躍馬を輩出することになれば、海外の活躍馬の血統表には 「Tokai Teio」 といった文字が現れ、 トウカイテイオーの遺伝子は十分にその子孫に受け継がれるわけです。

パーソロン、そしてシンボリルドルフから流れる父系遺伝した遺伝子に、競走能力にプラスに作用するものがあるならば、その父系残存に注力する意義はあるでしょう。 しかし、「トウカイテイオーの父系を残すこと」 にこだわるのであれば、仮にクワイトファインが種牡馬になっても、その産駒もまた種牡馬になる必要があるわけです。 これは男系社会において、単にその 「名字」 を残そうという動きと何ら変わりがありません。

また、「トウカイテイオー後継種牡馬プロジェクト」 のサイトには、 遺伝的多様性維持のためにバイアリータークの系統を残す意義が言及されていますが、父系が異系であればインブリーディングを避けられるわけでもなく、 さすがにこの論理には無理があります。 ただ、父方および母方の双方に今日ではブランド価値が低い在来のレジェンド馬が目白押しであるクワイトファインと近親交配になるような血筋の馬は現代において稀少でしょうから、 そういう意味では非常に面白そうです。生物学的に本当に健康的な配合はアウトブリーディングであることは間違いなく、この馬は140戦以上に耐え抜いたタフさに見る健康面からも、 何か期待してしまうものがあります。

ということで、あらためて私はこのプロジェクトを応援しています。だからこそ目標を見失うことなく継続してもらいたいのです。 そのためには、まずはポテンシャルのある繁殖牝馬を集め、より良い配合を模索することが必要です。 ちなみに、現実の世界では到底無理なことは分かってはいますが、 ディープインパクト、ハーツクライ、キングカメハメハ、ロードカナロアに集めたような牝馬をそのままクワイトファインに集めれば、いくらでもGI馬クラスを輩出できるでしょう。

あらためて クワイトファインの5代血統表 を眺めると、 その母方には、ミスターシービー、シンザン、タニノムーティエといった名が連なり、さらには父方のトウカイテイオー、シンボリルドルフを加えれば、 日本ダービー馬の名が5つもあります。そして、戦後日本の生産界の発展に多大なる貢献をしたヒンドスタンの名があります。 昨秋、日高を訪問した際に、浦河郷土博物館と同じ敷地内にある馬事資料館を再訪しましたが、そこには ヒンドスタンの剥製 があり、 威風堂々とわれわれを見つめています。

父系にとらわれずに、これら日本ゆかりの名血の遺伝子を繋いでほしいと願わずにはいられず、このプロジェクトにはそんな想いを確実に成就させて頂きたいのです。

(2020年1月19日記)

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