巨大な自転車操業(その1)
日本軽種馬協会の月刊機関誌 『JBBA NEWS』 には直近の輸出入馬のリストが掲載されており、毎回私は、
そのリストの輸入繁殖牝馬の中にどれだけGT馬がいるかをチェックしています。
先日届いた2月号には昨年12月の輸入状況が掲載されており、2019年に輸入されたGT牝馬総数をあらためて調べてみると 25 頭でした。
なお、このリストには 「飼養予定地」 が付記されており、これら 25 頭の概要は以下のとおりです:
千歳市: 4
安平町:16
その他: 5
さらに、2018年の状況も調べてみましたが、同じく 25 頭で以下のとおりです:
千歳市: 9
安平町:10
その他: 6
言うまでもなく、千歳市は社台F、安平町はノーザンFでしょう。
これを見てあらためて分かるとおり、日本にいる海外GTを勝った名牝の大半は社台G所有ということであり、
これ以外にGU馬やGV馬を含めて活発な輸入を現在も継続しているということです。
これを見て、「相変わらず社台は攻めの姿勢だな」 と思う方もいるかもしれませんが、果たして、これは 「攻め」 なのでしょうか?
私は上記のような状況は、社台Gの究極の 「守り」 だと思っています。
つまり、社台Gは、とりもなおさず名牝を積極的に輸入し続けなければ、その屋台骨はポキッと折れてしまうことを意味しているのではないでしょうか?
例えば、社台SSにおける種牡馬ビジネス。社台Gにおいて、このビジネスが今のところ成功裡に推移している(ように見える)のは、
配合相手たる有能な牝馬が産み出す産駒の活躍のお蔭であって、言い換えれば、名牝による種牡馬ブランドの底上げがあってのものです。
1頭の種牡馬を鳴物入りで○○億円で輸入したといった記事は確かに目を引きます。しかし、社台Gが繁殖牝馬を輸入する投資額はそれをはるかに上回っているはずです。
彼らは 「牝馬」 こそが自らのビジネス維持の生命線であることを十分に認識しているということであり、上記の数字はその証左でもあるわけです。
私には、どうしてもこのような状況が 「巨大な自転車操業」 に見えてなりません。
「攻撃は最大の防御」 とも言いますが、社台Gはここまでやらなければ現状を守り切れない。
巨大化した自転車を一生懸命に漕いではきたものの、その乗り手の息がとうとう切れてしまってバタンと倒れてしまったら、その大きさゆえにそう簡単には引き上げられず、万事休す……。
つまり、そんなビッグな自転車を漕ぎ続ける 「守り」 を、いっときも絶やすことはできない悲壮感さえ漂っているような気がしてならないのです。
その一方で日高のことを想うと、もしも、本当にもしも、カリフォルニアクローム等の著名馬の単なるスタッドインで揚々とした空気が安直に流れているのであれば、
そんな自転車操業以前の問題かもしれません。
さあ、今年は、どんな海外の名牝がどれだけ輸入されるのでしょうか?
先日亡くなった野村克也氏が、「成功している男たちの家庭を見ると、どこもカカア天下だ」 というようなことを言っていた記事を以前見ましたが、
人も馬も、男は女に支えられているようです……。
(2020年2月29日記)
「巨大な自転車操業(その2)」に続く
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