「女系天皇」と「女性天皇」

皇位継承に関する議論が若干賑やかになっているような気がしますが、ふと思うのです。そもそもわれわれ日本国民は「女系天皇」と「女性天皇」の意味の違いを理解しているのでしょうか? まず、この2つの究極的な違いを理解しなければ、この議論には参加することはできないと言っても過言ではありません。

恥ずかしながら私もその解釈が曖昧でした。いま、別途調べてみると、父と母のどちらが天皇の血筋かがポイントで、以下とのことです:

 女系天皇: 母親が天皇家の血筋だが父親は天皇家の血筋ではない天皇(女性に限らない)
 女性天皇: 父親が天皇家の血筋である女性の天皇

これは、不謹慎かもしれませんがサラブレッドに置き換えて考えてみると非常によく分かります。

例えば、天皇家の血筋たるその男系のラインをサンデーサイレンス系だと思ってみましょう(ここでは他のダーレーアラビアン系の父系は全くの異系と思って下さい)。 そうすると、ステイゴールドやディープインパクト、さらにはその産駒のオルフェーヴルやキズナはその男系ラインに入っています。 一方で、サンデーサイレンスを母の父に持つ場合はそのラインからはずれることになり、 スクリーンヒーローやドゥラメンテが天皇になったら 「女系天皇」 ということになるわけです。

他方、「女性天皇」 は、サンデー系を父に持つジェンティルドンナやリスグラシューが天皇になるということです。 ちなみに、上記の定義に基づけば、アーモンドアイが天皇の場合は 「女性天皇」 ではなく 「女系天皇」 ということになりますね。

過日、自民党の岸田政調会長が 「男系維持の歴史に重み」 という趣旨の発言をしたことに対して、その 「重み」 とは具体的に何なのか? という議論もありますが、まあ、 それは思想や信仰の部分にも入ってくるので、端的に説明しきれる話ではないでしょうし、少なくとも私はこの議論についてはこれ以上参加するつもりはありません。

しかしです、サラブレッドの血統に話を戻せば、「父系を重視するのはそこに歴史があるからだ」 などと名が売れている血統論者がもしも言ったなら、どう思いますか?  父系を議論することについて、生物学的に意味がないことは 「牝馬はY染色体を持たない」 にも詳述したとおりですが、 しかし、実際に父系重視の考えが依然として跋扈(ばっこ)しているという現実は、そのような思考とあまり変わりはないのではないでしょうか?

将棋界では18歳の藤井聡太さんが棋聖に続いて王位のタイトルも奪取し、将棋に無縁であった人たちにおいても盛り上がっていますね。 将棋には8つのタイトルがありますが、その最高峰のタイトルでもある 「名人」 は昔は世襲(家元)制でした。 将棋の歴史は17世紀初頭にさかのぼるようですが、名人が実力制で選ばれるようになったのはたかだか昭和に入ってからなのです。

モーリスの種牡馬としての評価に依然として 「ロベルト系なのでこうだ」 のような言葉を耳にすると、 根強く無意識に男系重視の思想が焼き付いているのだろうかと思ってしまうと同時に、上記のような世襲制が全盛だった世の中も想像してしまいました。

そして、「牝馬はY染色体を持たない」 には、 血統に興味を持ち始めた者において、父系が重要であることを説く理論は簡便かつ安直に受け入れられてしまう理由について私なりの考えを書きましたが、 隠れた男尊思想もそれとは無縁ではないのかな……と、皇位継承問題の議論の様子を横目で見ながら思ってしまったのです。

(2020年8月28日記)

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