シェア型書店
全国の書店の閉店ラッシュが止まりません。東京の大型書店では、昨年は神保町の三省堂本店が閉店(※1)となり、
今年に入り渋谷のMARUZEN&ジュンク堂、八重洲ブックセンターの本店が閉店しました。
さらに数日前には、我が地元の新横浜駅ビルにある三省堂がこの9月一杯で閉店になるというニュースが入ってきて、少なからずショックを受けています(※2)。
(※1)建物の老朽化による建替えが表面上の理由で、現在は仮店舗で営業中ですが、果たして元の規模の書店として復活するかどうか。
ネットショップではなく実物の書店に立ち寄る意味(意義)は、書物を直接に手に取ってパラパラとめくると、実際に買うべき価値のあるものかの判断がきちんとできること。
時にそのインクの匂いにフェロモンを想起してしまうこともあり、そして何より、思わぬ書物と出合う予想外の喜びがあることが実書店の魅力です。
特に私は自然科学関連の書物の物色をメインとするので、そこそこの規模の書店でないと蔵書が乏しく、また、日進月歩の自然科学の分野ですので、
新刊書が確実に多数ラインナップされている書店でないと厳しい。
ところで、我がウェブサイトのトップページにも書いているとおり、私は神保町のシェア型書店「猫の本棚」
に棚を借りています(棚番031で最近の画像は こちら)。
拙著『サラブレッドの血筋』は自作本でネットのみでの販売のため、購入検討をされている方に事前に手に取ってパラパラと見ていただくことができないのがネックだったのですが、
東京近郊に在住の方にしか足を運んではいただけないものの、このような場を得られたことはとても有難いことです。
このシェア型書店ですが、通常の書店の閉店ラッシュとは逆に、全国に徐々に増え始めているようです。
ネットで「シェア型書店」で検索してみると、こちら や
こちら のような紹介サイトが出てきます。
そして東京で書店街といえば、やはり神保町。そこに居を構えるシェア型書店では「パサージュ」と、
私も棚主である「猫の本棚」が双璧だと思っています。
いつも「猫の本棚」のレジにいるダンディな店主の 樋口尚文さん は、実は映画の監督であり評論家。
大学でも教鞭を執っていて出版物も多数であり、その人脈から棚主には著名人も多く、私などちょっと恐れ多いのですが……。
樋口さんがこの「猫の本棚」を開店するまでの経緯は、こちら に書かれており、非常に興味深いです。
ちなみに、どこのシェア型書店の店主も言っていることですが、営利目的で棚を借りることはまったく馴染まないということです。
それぞれの棚主が個展感覚で、自分はこのようなジャンルの書物に興味があるという意思表示をし、同じことに興味を持っている仲間を増やすことが大きな目的と言えるでしょう。
そんなことからも、買われたくない本は敢えて高価にしているという方もいるようで、その気持ち、実によくわかります。
私として、サラブレッドの血統関連の稀少な書物を敢えて棚に置き、図書館にもないものを直接手に取って見てほしいという気持ちがあり、
つまりそのような稀少書物を「客寄せパンダ」にしている面も正直なところあるのです。
こちら には吉沢譲治さんの話を書きましたが、吉沢さんの絶版本の何冊かはプレミア化しています。
そんな吉沢さんの本でなんとか仕入れたものを棚に置いていますが、すぐに売れては「客寄せパンダ」にはならないので、
『新説 母馬血統学』(講談社+α文庫)など定価は税別で743円だったものの、ネットでの現在の取引価格などを考慮しながら棚に置いたものはそれなりの値札を付けました。
重ね重ねですが、そのような値を付けて儲けようという気持ちはさらさらなく、一方で、
このくらいの額でも欲しいと思う熱意のある人なら喜んで買っていただきたいという気持ちなのです。
牝系(母系)を分類する「ファミリーナンバー」の産みの親たるブルース・ローの『Breeding racehorses by the figure system』の英文復刻版も棚に置きました。
さらにいま海外から、サンデーサイレンスに関する本を取り寄せているところです。
サンデーサイレンスと言えば、われわれ日本人のほとんどは彼の輸入後における種牡馬としての大成功の部分だけしか知らないのではないかと思うのですが、
彼の輸入前の、さらには競走馬として出世する前の生い立ちについて興味深く書かれていれば、自分用の他にもう1冊海外から調達して棚に置きたいと思っています。
また、イタリアの伝説の生産者たるフェデリコ・テシオに関する本も海外から取り寄せているところであり、これについても同様です。
もしこれらを棚に置いたらどのような方が見てくれるのだろうか、などと想像するととても楽しくなり、このような妄想が棚主の醍醐味でもあるのです。
最後にちょっと話がそれますが、昨日はちょうど関東大震災の発生から100年目。
そして昨日は、関東大震災直後に発生し史実から葬られかけた事件をベースにした劇映画たる『福田村事件』が公開され、
早速私は映画館に足を運びました。その映像および内容にはかなりの衝撃を受けたのですが、実はこの映画を観るきっかけになったのは、
こちら の樋口さんのこの映画に関する評です。
昨日はこの映画を観終わった足で「猫の本棚」に赴いて自分の棚の補充をしたのですが、同時にそこでプロの映画評論家と、
いまさっき観終えた映画について語り合う贅沢な時間がありました。
(2023年9月2日記)
(※2)幸いにも後継書店として昨年末に有隣堂がオープンしました。文具コーナーの充実等で蔵書数は少し減ったようですが、この規模の書店が新規開店ということは率直に嬉しいです。
(2024年2月9日追記)
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