なぜ特定の牝系から多くの活躍馬が出るのか?(その3)
今年の英ダービー馬の Masar、その4代母はご存知 Urban Sea です。「なぜ特定の牝系から多くの活躍馬が出るのか?(その1)」でも触れたとおり、
Urban Sea は4頭のGI馬を産んでいますが、Galileo と Black Sam Bellamy の父は Sadler's Wells、My Typhoon の父は Giant's Causeway、 Sea the Stars の父は Cape Cross と、
配合種牡馬も多様です。他にGV勝馬の Urban Ocean(父 Bering)、愛オークス2着&英オークス3着の Melikah(父ラムタラ)、
英オークス5着の Cherry Hinton(父 Green Desert)がおり、この Melikah の曽孫が Masar であり、Cherry Hinton の仔が愛オークス馬の Bracelet。
GI馬を数多く輩出しているのは当然凄いのですが、Urban Sea に対する配合種牡馬の多様さに、そしてその種牡馬の質に左右されないことに驚かされるのです。
現在、拙著『サラブレッドの血筋』の次の版に向けて世界のGI勝馬を網羅したファミリーラインの樹形図の加筆を進めていますが、
そのラインの枝葉の中では、上述の Urban Sea のように、明らかにGI馬が密集している部分がいくつか見つかります。Kingmambo 等の母である Miesque の系統もそう。
この母系の活躍馬も書き出すときりがなく、プール・デッセ・デ・プーラン(仏2000ギニー)やBCマイル勝馬の Karakontie、ヨークシャーオークス勝馬の Tapestry、
ドバイターフ勝馬のリアルスティール、今年に入っては愛1000ギニー勝馬の Alpha Centauri、ジョッケクルブ賞(仏ダービー)勝馬の Study of Man などが列挙されます。
ちなみに、私が、拙著のファミリーラインの樹形図を最も活用頂きたいと思っているのは生産者です。つまり、自己の牧場で保有する繁殖牝馬をこの樹形図に加筆した場合に、
その周辺にはどのようなGI馬がどれくらいいるかが、その繁殖牝馬の価値を測る指標の1つになるのではないかと思っているのです。
ところで、繁殖牝馬の選び方について、「「パカパカファーム流」繁殖牝馬の選び方」
にあるハリー・スウィーニィ氏の視点には大きく頷きました。GIで僅差2着の牝馬は1着とわずかな差しかないのに繁殖牝馬としての評価も価格もグッと下がり、
そこが狙い目という考え方は全くもって同感です。取るに足らない傷がついているアウトレットのブランド品の値段が格段に下がっているのと似ています。
サンテミリオンにしても、オークスでアパパネからもう数センチ遅れていたならGI馬の称号はなく、そのブランド価値は大きく下がっていたでしょう。
今年の『優駿』6月号の合田直弘氏のコラム『半世紀ぶりに甦った血脈』も興味深い内容でした。凱旋門賞馬の名牝 Zarkava の話で、
この馬の母系は4代続けて競走馬として全くの不発だったものの、5代母にはあの名牝 Petite Etoile の名前があり、その名牝の血が半世紀の時を経て Zarkava にて甦ったこと。
今度はその Zarkava、3番仔までが全て未出走に終わり、母として失格の烙印を押されかけたものの、4番仔の Zarak がGIのサンクルー大賞を制し、
合田氏の「沈黙する時は徹底的に沈黙するものの、諦めずに待ち続ければ大輪の花を咲かせる、そういう血脈なのだと、妙に納得したものです」の言葉に奥深いものを感じました。
(2018年8月25日記)
いま樹形図を加筆していて気づいたのですが、今年の米国ベルモントオークスの勝馬 Athena も Cherry Hinton の仔ですね。Urban Sea の母系恐るべし……。
(2018年10月8日追記)
「なぜ特定の牝系から多くの活躍馬が出るのか?(その4)」に続く
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