なぜ特定の牝系から多くの活躍馬が出るのか?(その4)
私は、牝系(母系)の重要性のキーファクターは「ミトコンドリア」と「エピジェネティクス」との仮説を掲げております。
数日前、ノーベル医学生理学賞を受賞された本庶佑氏の著書『ゲノムが語る生命像』(講談社ブルーバックス)を読み終えたのですが、
この本の中でもミトコンドリアDNAの母性遺伝が言及され、「遺伝学的には、女性のほうが強い影響力を持つと言えるであろう」とありました。
ノーベル賞受賞者も母系の重要性を説いていることに、僭越ながらも非常に心強い思いがしたのです。
昨日のホープフルステークス。サートゥルナーリアが勝ったことにより、母シーザリオの偉大さ、さらには「母系の意義」を再認識させられます。
あらためてですが、シーザリオは以下の3頭のGI馬を産みました:
エピファネイア(父 シンボリクリスエス)
リオンディーズ(父 キングカメハメハ)
サートゥルナーリア(父 ロードカナロア)
ハルーワスウィートやプリンセスオリビアも3頭のGI馬を産んでおり(こちらを参照)、それも複数の種牡馬相手というのがすごいのですが、
さらにシーザリオの場合は3頭の父親が全て違います。別稿でも触れましたが、繁殖牝馬が生涯に産める仔の数はせいぜい10頭余りです。
しかし、超一流種牡馬に超名牝を10数頭ほど見繕って種付けをしても、その中から複数のGI馬が出るなんて想像もできません。
同一の種牡馬を相手に複数のGI馬を産むだけでもすごいことなのに、全て違う種牡馬を相手に3頭も産んでしまう……。
ちなみに、私が作成している世界のGI馬の母系樹形図中に、3頭のGI馬を産んだ偉大な母の例はいくつも見つかります。
その中で、シーザリオのように、全て違う種牡馬相手の例はとりあえず以下がありました:
母 Silk and Scarlet
エイシンアポロン(父 Giant's Causeway)……マイルチャンピオンシップ
Master of Hounds(父 Kingmambo)……ジェベルハッタ
Minorette(父 Smart Strike)……ベルモントオークス
母 Brava
Cruzada(父 Quintillon)……ペルージョッキークラブ大賞等
La Colosa (父 Pegasus Wind)……ポージャ・デ・ポトランカス賞等
Siete de Fuego(父 Islam)……リカルドオルティスデゼバリョース大賞
拙著『サラブレッドの血筋』の第3版は再来年(2020年)の春に発行予定で、粛々と準備を進めておりますが、その中であらためて母系の重要性について、
「ミトコンドリア」と「エピジェネティクス」をキーワードにさらに科学的に突っ込んで論じる予定です。
(2018年12月29日記)
いま母系樹形図を加筆していたのですが、2009年のペルーの2000ギニー勝馬 Cristiano(父 Islam)の母はなんと上述の Brava であり、4頭のGI馬の母であることが分かりました!!
4頭のGI馬の母と言えば、こちらにも書いたとおり Urban Sea を思い出しますが、
2001年以降生まれのGI馬を網羅した樹形図を書いていている中で初めての例です。本当に偉大なる母です。凄すぎます。
(2019年4月8日追記)
「なぜ特定の牝系から多くの活躍馬が出るのか?(その5)」に続く
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