日高の生産者の講演内容に思ったこと
以前、日高の著名な生産者の講演の記事を見たことがあります。
その記事によれば、その生産者は、社台グループの独り勝ちの現在の日本の生産界において日高を再生させるためにいくつかのキーワードを挙げており、その1つに「種牡馬」がありました。
サンデーサイレンスにより今日の社台の繁栄があるように、日高も優良な種牡馬の導入が不可欠といった趣旨の内容でした。
生産界のレベルの底上げということでは、「種牡馬」がキーワードであることは或る意味で正しいとは思います。
しかし、「種牡馬」という概念を前面に押し出してしまうと、困った時の神頼みではないですが、
「良い種牡馬さえいればどうにでもなる」という考えが生産界に跋扈(ばっこ)してしまうのではないかと私は懸念します。
確かにサンデーサイレンスのような種牡馬がいれば、事態は大きく変わるでしょう。
でも、日本の近代競馬を回顧してもあのような種牡馬は例外中の例外であり、まさしく宝くじに当たったようなものです。
また、サンデーサイレンスのような種牡馬がいま日高に来たとしても、当たり前の話ですが年間に種付けできる頭数は限られており、即座に日高全体の底上げとなるわけではありません。
ここで誤解してはならないのは、「サンデーサイレンス」の凄さはこの馬の「個体」の凄さであって、
そこから「種牡馬」という概念の価値を総合的にアップさせるような思考はあまりに短絡的ということです。
私は、「種牡馬」を過信すればするほど日高は衰退すると考えます。
確かに、能力が高いと言えない繁殖牝馬ばかり保有している中小牧場の場合、種牡馬に頼らざるを得ない気持ちは痛いほど分かります。
しかし、サラブレッドも父と母の遺伝子を並行してもらっている動物(生物)であって、父母各々の遺伝子群の「ブレンド」によって如何様にもなるのです。
ちなみに、種牡馬への過信は禁物である旨は別稿でも書かせて頂きました。(こちら)
そういう意味で、例えばですが、保有する繁殖牝馬の系統とニックス関係にある種牡馬の系統を統計的に解析する試行錯誤を重ねることを決して怠ってはなりません。
以前、私は「何が社台グループを成長させたのか?」で社台グループは生物学や統計学の専門家とタイアップしているはずと書いたことを、
念のためリマインドさせて頂きます。
なお、このような意識改革は生産者だけで完結できる話ではありません。その改革に向けた科学的啓発が必要なのはむしろ馬主層でしょう。
生産者が確固たる信念を持って馬をつくっても、購買層がそれを認識できなければ水の泡になるわけですから。
このあたりのことは後日あらためて論じたいと思っております。
(2019年1月10日記)
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