種牡馬の種付料に思うこと

昨日のフェブラリーステークスはインティが快勝、晴れてGI馬となりました。 浦河町の小さな家族経営の牧場生まれであり、今年のGI戦線は日高勢が幸先のよいスタートを切りました。

インティの父は日本軽種馬協会が所有するケイムホーム。他の産駒の重賞勝利はGVが最高でしたが、とうとうGI馬を送り出し、 早速軽種馬協会のウェブサイトのケイムホームの紹介ページにもその旨が加筆されており、 更には直営の情報サイト「JBISサーチ」のケイムホームの種牡馬成績の欄も更新されており、 軽種馬協会さんはこういうのは呆れるほど早いですね……。

ところで、ケイムホームですが、現在は九州種馬場におり種付料は10万円、あまり言いたくはないのですが「都落ち」です。

しかしですよ、ここに来てGI馬を突如輩出したことで、一旦下がった評価は再上昇するのではないでしょうか?  そもそも、この馬は種付料10万円に甘んじる馬ではないと私は思っていますが、もしもインティの活躍でその評価が急激に上昇したならば、 これには別の意味で私は違和感を抱くでしょう。 なぜなら、そのような評価の急上昇は、インティの活躍は種牡馬の功績であると短絡的に捉えてしまっていることを意味するからです。

インティの母キティは4勝してはいますが、とびきりの成績を収めた馬ではないので、上述のように思われたとしても当然と言えば当然でしょう。 しかし、同血の全きょうだいでも活躍度合いが全く違う例は山ほどあるように、うわべの血統構成が即成績にリンクするわけではないことから、 インティという「個体」は父と母からもらった各々の遺伝子群の組み合わせがたまたま素晴らしかった「配合の一成果」なのです。

こちらでも触れましたが、ディープインパクトの公示種付料は4千万円、デビッドジュニアやケイムホームは10万円……つまり400倍の格差です。 これは、人とは違う馬という生物なのだから(更には人為的に系統を選別したサラブレッドなのだから)、 個体間の遺伝子の質にそれだけの違いがあるのも当然だと言っているようなものです。 その一方で確かなことは、人も馬も、犬も猫も、牛も豚も、DNAに載っている遺伝子の制御を受けて生命活動を行っているのは同じ、 その遺伝子を確かな遺伝法則に従って親から授かっているのも同じ、 一定の期間で生命活動は終了すること(=寿命)が授かった遺伝子にプログラムされているのも全く同じということです。

こちらでも紹介したとおり、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(橘玲 新潮新書)では、 往々にして努力は遺伝に勝てず、どんなに頑張っても勉強ができない子供はいるが、その事実を認めない社会は破綻している旨が書かれています。 つまり、サラブレッドの遺伝子では400倍もの価値の差が発生するとされている一方で、人間ではそのようなことは絶対にあり得ないという教育制度が厳然と存在しているのです。

ただしですよ、もしも私が社台の人間であれば、ディープインパクトの種付料は4千万円どころか、それ以上の額でも飛びつく輩がいるのなら、可能な限りその値を吊り上げるかもしれません。 それがビジネスというものなのですから。その一方で私は、種付料が1千万円以上もする種牡馬の存在を当然と思っている関係者が(世界中に)一定数いるという事実に対して、 競馬サークルはグローバルに常軌を逸していると思わざるを得ないのです。 歯に衣着せぬ言い方をすれば、そんな錯覚を抱いている関係者に支えられているビジネスは紛れもない「砂上の楼閣」です。

母系を科学的(遺伝学的)に研究している私としては、以上のような気持ちが日々強まっています。 なお、誤解してもらいたくないのは、「種牡馬」も一定の範囲で重要なことは間違いない事実です。 つまり、そのようないくつもの事実を認識した上で、バランス感覚のある科学的探究を成し遂げた者こそが将来の生産界を制するのではないでしょうか。

(2019年2月18日記)

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