それでもディープインパクトなのですか?(その1)
先週の有馬記念。入着馬の父親は以下です。
1着馬: バゴ
2着馬: ディープインパクト
3着馬: ディープインパクト
4着馬: オルフェーヴル
5着馬: ディープインパクト
同着馬: ディープインパクト
6頭中4頭が父ディープインパクト。これを見ると、やっぱりディープインパクトは凄いと思ってしまうかもしれません。その一方で、これら各馬の母系も見てみましょう。
1着馬: 姉がGI馬
2着馬: 母と弟がGI馬
3着馬: 母がGI馬
4着馬: 母がGI馬
5着馬: 叔父がGI馬
同着馬: 母がGI馬
それでもやはり、これら有馬記念の上位に来るような一流馬の能力は、ディープインパクトの血のおかげなのですか?
ディープインパクト産駒のGIを勝った馬は2020年末現在47頭います。
こちら は現在準備中の拙著『サラブレッドの血筋』の第3版に掲載する表ですが、これら47頭の近親にはどれだけのGI馬がいるのかを調べてみたのです
(近親が勝ったGIには国際格付前のものも含む)。
実に○が多いと思いませんか? このようにして眺めてみると、浮き彫りになって見えてくるものがあります。
母か祖母が○の馬は18頭もおり、つまり父ディープたるGI馬の4割もが母方直系近親にGI馬がおり、さらに、
きょうだいにGI馬がいる馬も加えると3分の2の31頭にもなります。つまり、このような牝馬群を交配対象に集めれば、40頭以上のGI馬を出すことなどごくごく当然の話なのです。
こんなことを想像してみましょう。同じ品種の野菜をAさんとBさんが種子から栽培するとします。
Aさんはその種子を畑に蒔いたらそのまま、あとは何もしなかったところ、たいした収穫成果は得られませんでした。
その一方でBさんは、その種子を蒔く前に十分に畑を耕し、十分に肥料をやり、発芽後も無駄なものは随時間引き、日当たりや水分に常に気を使ったところ、
風味豊かな収穫物が存分に得られました!
ディープインパクトがこのように40数頭もGI馬を輩出したことについて、美辞麗句を存分に用いて絶賛する書物やウェブサイト、
そしてセレクトセールなどでその産駒に大枚をはたく面々の存在は、精巧な金メッキ技術によって、
どんなに目が肥えた者でも純金だと信じ込まされてしまったようなものなのかもしれません。
ディープインパクトの血を求めて遠路はるばる日本に名牝を引き連れてくる海外の超大手ブリーダーの存在こそ、その日本の金メッキ技術は世界をも唸らせた証しです。
これは競馬がもっぱら富裕層の飽くなき欲望に支えられていることが国や地域を問わないことをも意味します。
プロ野球界などでは「名選手、名監督にあらず」という言葉がありますが、名選手が監督に任命されたならば、当然のごとくファンは名監督になることを求めます。
競走馬としてのディープインパクトは紛れもなく最高級の純金のようなものでしたが、それゆえにわれわれは種牡馬としての彼にも純金の品質を求めました。
そして、多数のGI馬を輩出したことからも、それを純金のように思わせることには成功しました。
とは言え、これからの生産界は、各々の個体が純金か金メッキかを見分ける眼力が益々要求されることに間違いはありません。
なお、誤解はして頂きたくないのですが、私はへそまがりではあるものの、何もディープインパクトに対してネガティブな視点に立ちたいということではありません。
冷静に真実を見極めたいだけなのです。ディープインパクトという馬、そしてその想い出は、紛れもなくわれわれの宝物です。心底そう思います。
最後に、こちら に書いたように、私は野口英世が大好きです。
一心不乱に勉学に励む一方で、借金は一切返さない、遊郭通いに興ずるというような人間臭さに非常に惹かれるのです。
しかし、今日の医学に対する直接的貢献は残念ながらなかったものの依然として偉人として崇められている英世の上記のような話を持ち出すと白い目で見られるように、
日本のみならず世界の競馬サークルにおいて既に偶像化してしまったディープインパクトにネガティブな言葉を投げかけることはもはやタブー化しつつあります。
けれども、タブーだからと現実から目を背けることは、残念ながら私の性には合いません(笑)。
よって、正月早々からディープインパクトを金メッキ呼ばわりするとんでもない私は、今年も空気を読まない発言を続けますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
(2021年1月3日記)
「それでもディープインパクトなのですか?(その2)」に続く
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