それでもディープインパクトなのですか?(その2)

ホープフルSは母がGI馬であるディープインパクト産駒のキラーアビリティが快勝しました。 ということで、今回のコラムのタイトルを見て、「堀田の奴、またその話か……」と早速思った方もいらっしゃると思いますが(笑)、 今年の一発目に書いた「それでもディープインパクトなのですか?(その1)」の続編で今年を締めたいと思います。

まず、ディープインパクトの種牡馬としての私の評価は 「天下無敵のブランド(その1) (その2)」にも書いたとおりです。 なお、(その2) の中にある表(※1) はGIを勝ったディープ産駒の近親にはどれだけのGI馬がいるかを示したものであり、早速キラーアビリティを加筆しておきました。

あらためて3日前のホープフルSですが、勝ったキラーアビリティ、2着のジャスティンパレス、 そして1番人気で12着と惨敗したコマンドラインと、3頭のディープ産駒が出ていました。 そしてこれら3頭の母系ですが、キラーアビリティの母キラーグレイシスは米GIハリウッドスターレットSの勝馬、 ジャスティンパレスの半兄は米GIベルモントS勝馬の Palace Malice、そしてコマンドラインの母コンドコマンドは米GIスピナウェイSの勝馬……と、 相変わらずの様相です。

私は普段から「この馬はディープ産駒なので!」のようなコメントを深慮なく喜々とした声で発する解説者は要注意だと思っているのですが、 ホープフルSの放送でも、勝ったキラーアビリティを解説者が「ディープの末脚を引き出した」とか「ディープだからこれからも長い距離は大丈夫」 のようなことを言っているのを耳にすると、なんとも表現しがたい気持ちになってしまうのです。 まぁ、公共の電波に載る番組は、もしかしたら各解説者には一定の方針に従った発言を要求しているのかもしれないので、 われわれには分からないご苦労もあるのかな……と思うことにはしているのですが。

或る甲子園の常連校があったとしましょう。そして、高校野球好きのAさんとBさんがいたとして、以下のような会話があったとしましょう。

Aさん「あの高校が強いのは監督の指導力が素晴らしいからだね」
Bさん「あの高校は中学の逸材を根こそぎかき集めてるんだから当然だよ」

つまり、ディープ産駒を見る眼にBさんのような視点が抜け落ちていないかということです。

こちら は来年のJRAのカレンダーで、「歴史をつなぐ日本の種牡馬たち」がテーマになっています。 冒頭の1月はやはりディープインパクトであり、ご覧のとおり「種牡馬としても競馬界に多大な影響を残す」とありますが、 昨日、タスマニアのスターホースたるオーストラリアンギニー馬 Mystic Journey をノーザンファームが購入したというニュースが入ってきたことからも、 あらためて思うのは「巨大な自転車操業」にも書いたように、種牡馬ビジネスは名牝による種牡馬ブランドの底上げがあってのものだということです。

多様な角度から冷静に(辛口に?)ディープインパクトを眺め続けてきた私は、つまり、 色々な方向からディープを観察したくてたまらない私は、もしかしたら誰にも負けないディープの究極のファンなのかもしれません!  ……まぁそれはちょっと違うかもですが、しかし、偶像化させたものを右にならえで崇拝するのではなく、ありのままの姿を追い求めて受け止めることこそ、 ディープに対する本当の敬意であると考えるわけです。少なくとも私の価値観においては。

ディープインパクトの2020年生まれのラストクロップのうち日本で血統登録されたものは6頭とのことですが、 これらの母親を見ると、そのうちの4頭もがやはりGI馬(スイープトウショウ、イルミナント、フォルト、ワッツダチャンセズ)であり、 これら忘れ形見からももしかしたらGI馬が登場するかもしれません。 その時は、ディープ称賛の声が「ラストクロップ」という修飾語で一段と増幅されるような気がしますが、 不肖私は無意義に空気を読むことなどせず冷静に見守っていく所存です。

来年もどうかよろしくお願いいたします。

(2021年12月31日記)

こちら は『スタリオンレヴュー2020』(サラブレッド血統センター) にあるディープインパクトのラストシーズンたる2019年の交配相手(24頭)ですが、なんと黄色(15頭)がGI馬で、桃色の牝馬は既にGI馬を出産、 橙色の牝馬はきょうだいにGI馬がいます。 しかしこの年はシーズン中にディープは種付けを中止したためか、実際にこれら牝馬でもディープを受胎せず途中で交配相手を他の種牡馬に変更したものもいるようで、 ローブティサージュ、スターアイルなどは翌年にロードカナロアの仔を産んでいます。 いずれにしても当初はこのように超名牝を集結させたわけであり、果たしてこのような種牡馬が世界にどれだけいるのだろうかと思ってしまったのです。

追伸: 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

(2022年1月1日追記)


戻る