天下無敵のブランド(その2)
前回 の「天下無敵のブランド(その1)」については、早速有難い(?)お言葉を頂戴しました。
「サラブレッドの能力が母だけで概ね決まるような極論」と言われてしまったのです。そんなことはどこにも書きませんでしたが。
まずは誤解を避けなければなりません。「牝馬はY染色体を持たない」にも書いたとおり、
私は「父系」に科学的意義は見出せないと考えてはいるものの、「父」には当然に意義があると思っています。
しかし、「真実の中にこそ醍醐味あり」でも書いたように、例えば私が「AはBより濃い」と書くと「堀田は絶対にAと言っていた」
と受け取られてしまうことがあり、今般の例はまさしくそれです。
また別途思い出したのが、「補足遺伝子」のところで書いたとおり、
母方の競走能力への遺伝的影響は父方など比にならないほど大きい旨を報告した科学論文を紹介したら、
「父不要ということか?」という声を或る競馬関係者から受けて、思わず絶句したことです。
つまり世間一般は、黒か白か、有るか無いか、というようにメリハリをつけたがるわけですが、
これについては「デジタル思考の弊害」でも書きました。
さらに、前回 私が書いたことは、「メンデルの法則に基づき父と母から半分ずつの遺伝子をもらうという基本を無視した主観まみれの臆見」
とも言われてしまったのですが、「メンデルの法則のような遺伝の原則を理解せずに配合を論ずるのは憲法の条文を読まずに憲法を論ずるようなものだ」
と普段から言って煙たがられている私が、逆にそのようなことを言われるとは恐れ入りました。ご指摘を心より感謝し、もう少し勉強させて頂きますわ(笑)。
なお、別稿では何度も書いているとおり、母性遺伝をするミトコンドリアの遺伝子があったりと、
母系の重要性はそちらからも斬り込む必要があることは忘れてはなりません。
EI(アーニング・インデックス)というものがあります。この数値の意味は、JRAのウェブサイトではとりあえず以下のように書かれています。
「種牡馬の優劣を判定するためのめやすで、出走馬1頭当たりの収得賞金の平均値を1.00として、各々の種牡馬の産駒の平均収得賞金の割合を数値で表わしたもの。
1.00が平均となり、数値が大きくなるほど産駒が多くの賞金を獲得していることを表わす。
これを算式で示すと(産駒の総収得賞金÷産駒の出走頭数)÷(出走馬総収得賞金÷総出走頭数)となる」
しかしです、本当にその種牡馬の優劣がこの数値で判定できるのでしょうか?
こちら はネットケイバの2021年分の種牡馬データですが、
そこのEIを見てみると、ディープインパクトの値がずば抜けています。
EIは、確かに産駒成績から算出しているので、その種牡馬の産駒の総合的なレベルを表しているのは間違いないでしょうが、
種牡馬ごとの交配牝馬の質にはかなりの差異があることから、その種牡馬自身の種牡馬としての能力(質)では決してないということです。
このことからEIとは、いかに交配相手に名牝をかき集めたかを示す数値であるのかもしれず、もしかしたら「BI(ブランディング・インデックス)」
と呼んだ方が或る意味で適切なのかもしれません。
さらに、このEIに、交配した牝馬の資産価値(例えば繁殖牝馬市場で購買した価格)のような係数を掛けることがもしもできたならば、
ディープインパクトの値は一気に下落するのではないでしょうか? つまり、コスパの点では全く劣っていることが明示されてしまうかもしれないのです。
ハーツクライやキングカメハメハもディープインパクトと同等の良血牝馬が配合されているので、
これら各馬の数値が肉薄していないと私の理屈は整合性が取れないとも言われてしまったのですが、これについては最初はなるほどと思いました。
例えば、ハルーワスウィートを見れば、ディープインパクトを相手にヴィルシーナとヴィブロスという2頭のGI馬を産んだ一方で、
ハーツクライ相手にシュヴァルグランというGI馬も産みました。
サロミナは、ハーツクライ相手にはサリオスというGI馬を産みましたが、ディープインパクト相手では有馬記念2着のサラキアが現時点でベストです。
しかし、総合的に見て、本当にハーツクライやキングカメハメハもディープインパクトに与えた繁殖牝馬と同等の牝馬が与えられていたでしょうか?
こちら にも書いたマインディングに加え、スタセリタ、アヴニールセルタンのような例を見てのとおり、
名牝の中でもこのような超名牝の第一の選択肢はやはりディープインパクトとなっていませんか?
こちら(※1) はディープインパクト産駒のGI馬の近親にどれだけGI馬がいたかという表です(近親が勝ったGIは国際格付前のものも含みます)。
この表は拙著『サラブレッドの血筋』の第3版に掲載したものに、今年に入り新たにGI馬となったダノンキングリー、レイパパレ、シャフリヤール、Snowfall
を加えたものですが、あまりに〇が多いと思いませんか? これらの○がついた馬でも「母」が○であるのが俗に言う「良血」の度合いは群を抜いて最高で、
次に「祖母」「きょうだい」ということになります。母か祖母が○の馬は51頭中20頭もおり、つまり父ディープのGI馬の4割もが母方直系近親にGI馬がいるということです。
さらに、きょうだいにGI馬がいる馬も加えると33頭(65%)にもなり、この表でいずれかに〇がついている馬は42頭(82%)にも上ります。
他方、こちら(※2) はハーツクライ産駒とキングカメハメハ産駒のGI馬における近親の状況です。
キングカメハメハの方はダイナカール一族で〇の数は稼いでいますが、〇がついた馬の割合がディープインパクトより減ることは分かると思います。
或る意味でこれら2頭は、このような状況でもこれだけのGI馬を輩出しているということです。
このように一覧化してみるとハッキリと分かるとおり、ディープインパクトの優秀産駒のほとんどは母系が卓越しているということですが、
それを考慮してもなおEIの値がハーツクライやキングカメハメハの値よりも抜けていると言い張るのでしたら、
少なくともその観点ではディープインパクトはこの2頭よりベターな種牡馬ということなのでしょう。
今般、私の考えは「サラブレッドの能力が母だけで概ね決まるような極論」と言われてしまったのですが、
ディープインパクト産駒を血統面から論じる際に母系には全く言及せず、
もっぱら「ディープインパクトの血のお蔭」といったような競馬サークルに溢れかえる言説こそ、まさしく「極論」であると存じます。
(2021年6月9日記)
今日の豪GIスプリングチャンピオンSをディープインパクト産駒の Profondo が勝ったので、(※1) の表に加筆しました。
結果、この表における〇の数は52頭中70個(1頭当たり1.35個)となりました。
(2021年10月9日追記)
今日の秋華賞をディープインパクト産駒のアカイトリノムスメが勝ったので、(※1) の表に加筆しました。
結果、この表における〇の数は53頭中71個(1頭当たり1.34個)、母か祖母が○の馬は53頭中21頭(40%)、いずれかに〇がある馬は53頭中43頭(81%)となりました。
(2021年10月17日追記)
今日の朝日杯FSをハーツクライ産駒のドウデュースが勝ったので、(※2) の表に加筆しました。
あらためて(※1)と(※2)の表における〇の数を単純に数えると以下になります。
ディープインパクト産駒:53頭中71個(1頭当たり1.34個)
ハーツクライ産駒: 11頭中7個(1頭当たり0.64個)
キングカメハメハ産駒: 13頭中11個(1頭当たり0.85個)
(2021年12月19日追記)
今日のホープフルSをディープインパクト産駒のキラーアビリティが勝ったので、(※1) の表に加筆しました。
結果、この表における〇の数は54頭中72個(1頭当たり1.33個)、母か祖母が○の馬は54頭中22頭(41%)、いずれかに〇がある馬は54頭中44頭(81%)となりました。
(2021年12月28日追記)
今日の大阪杯をディープインパクト産駒のポタジェが勝ったので、(※1) の表に加筆しました。
結果、この表における〇の数は55頭中74個(1頭当たり1.35個)、母か祖母が○の馬は55頭中23頭(42%)、いずれかに〇がある馬は55頭中45頭(82%)となりました。
(2022年4月3日追記)
今日の豪GIオーストラリアンオークスをディープインパクト産駒の Glint of Hope が勝ったので、(※1) の表に加筆しました。
結果、この表における〇の数は56頭中75個(1頭当たり1.34個)、母か祖母が○の馬は56頭中23頭(41%)、いずれかに〇がある馬は56頭中46頭(82%)となりました。
(2022年4月30日追記)
今日の秋華賞をキングカメハメハ産駒のスタニングローズが勝ったので、(※2) の表に加筆しました。
あらためて(※1)と(※2)の表における〇の数を単純に数えると以下になります。
ディープインパクト産駒:56頭中75個(1頭当たり1.34個)
ハーツクライ産駒: 11頭中7個(1頭当たり0.64個)
キングカメハメハ産駒: 14頭中12個(1頭当たり0.86個)
(2022年10月16日追記)
昨日の英GIの Futurity Trophy をディープインパクト産駒の Auguste Rodin が勝ち、
今日の菊花賞をディープ産駒のアスクビクターモアが勝ったので、(※1) の表に加筆しました。
あらためて(※1)と(※2)の表における〇の数を数えると以下になります。
ディープインパクト産駒:58頭中80個(1頭当たり1.38個)
ハーツクライ産駒: 11頭中7個(1頭当たり0.64個)
キングカメハメハ産駒: 14頭中12個(1頭当たり0.86個)
また、母か祖母が○の馬は以下になります。
ディープインパクト産駒:58頭中24頭(41%)
ハーツクライ産駒: 11頭中3頭(27%)
キングカメハメハ産駒: 14頭中4頭(29%)
さらに、いずれかに〇のある馬は以下になります。
ディープインパクト産駒:58頭中48頭(83%)
ハーツクライ産駒: 11頭中6頭(55%)
キングカメハメハ産駒: 14頭中6頭(43%)
(2022年10月23日追記)
今日のチャンピオンズカップをキングカメハメハ産駒のジュンライトボルトが勝ったので、
(※2) の表に加筆しました。
あらためて(※1)と(※2)の表における〇の数を数えると以下になります。
ディープインパクト産駒:58頭中80個(1頭当たり1.38個)
ハーツクライ産駒: 11頭中7個(1頭当たり0.64個)
キングカメハメハ産駒: 15頭中12個(1頭当たり0.80個)
また、母か祖母が○の馬は以下になります。
ディープインパクト産駒:58頭中24頭(41%)
ハーツクライ産駒: 11頭中3頭(27%)
キングカメハメハ産駒: 15頭中4頭(27%)
さらに、いずれかに〇のある馬は以下になります。
ディープインパクト産駒:58頭中48頭(83%)
ハーツクライ産駒: 11頭中6頭(55%)
キングカメハメハ産駒: 15頭中6頭(40%)
(2022年12月4日追記)
(※1)の表に以下が抜けていましたので加筆しました。
ショウナンパンドラの伯父はステイゴールド
ダノンキングリーの祖母はGI馬
また、昨年末のホープフルSを勝ったドゥラエレーデはサトノダイヤモンドの甥なので、これも加筆しました。
結果、この表における〇の数は58頭中83個(1頭当たり1.43個)、母か祖母が○の馬は58頭中25頭(43%)、いずれかに〇がある馬は58頭中49頭(84%)となりました。
(2023年3月5日追記)
今日の天皇賞をディープインパクト産駒のジャスティンパレスが勝ったので、(※1)に加筆しました。
結果、この表における〇の数は59頭中84個(1頭当たり1.42個)、母か祖母が○の馬は59頭中25頭(42%)、いずれかに〇がある馬は59頭中50頭(85%)となりました。
(2023年4月30日追記)
昨日の英GIの The St Leger をハーツクライ産駒の Continuous が勝ったので、(※2)の表に加筆しました。
また、この馬はディープインパクト産駒の Saxon Warrior のいとこなので、(※1)
の表の Saxon Warrior のいとこのところに〇を追記しました。あらためて、これらの表における〇の数を数えると以下になります。
ディープインパクト産駒:59頭中85個(1頭当たり1.44個)
ハーツクライ産駒: 12頭中9個(1頭当たり0.75個)
キングカメハメハ産駒: 15頭中12個(1頭当たり0.80個)
また、母か祖母が○の馬は以下になります。
ディープインパクト産駒:59頭中25頭(42%)
ハーツクライ産駒: 12頭中3頭(25%)
キングカメハメハ産駒: 15頭中4頭(27%)
さらに、いずれかに〇のある馬は以下になります。
ディープインパクト産駒:59頭中50頭(83%)
ハーツクライ産駒: 12頭中7頭(58%)
キングカメハメハ産駒: 15頭中6頭(40%)
(2023年9月17日追記)
今日のフェブラリーSをキングカメハメハ産駒のペプチドナイルが勝ったので、(※2) の表に加筆しました。
あらためて、これらの表における〇の数を数えると以下になります。
ディープインパクト産駒:59頭中85個(1頭当たり1.44個)
ハーツクライ産駒: 12頭中9個(1頭当たり0.75個)
キングカメハメハ産駒: 16頭中12個(1頭当たり0.75個)
また、母か祖母が○の馬は以下になります。
ディープインパクト産駒:59頭中25頭(42%)
ハーツクライ産駒: 12頭中3頭(25%)
キングカメハメハ産駒: 16頭中4頭(25%)
さらに、いずれかに〇のある馬は以下になります。
ディープインパクト産駒:59頭中50頭(83%)
ハーツクライ産駒: 12頭中7頭(58%)
キングカメハメハ産駒: 16頭中6頭(38%)
(2024年2月18日追記)
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