憲法、そしてリテラシー

先日の8月16日、現職の国土交通大臣たる赤羽かずよし氏が、「臨時国会の開催については、国会が決めることでして、内閣には何の権限もございません」 とツイートしたのですが、憲法の第53条では「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる」と規定しており、大炎上となりました。 要旨は こちらの記事 のとおりです。

別途私は、「メンデルの法則」のような遺伝の大原則を理解せずに配合を論ずるのは、憲法の条文を読まずに憲法を論ずるようなものと皮肉まじりに言ってきましたが、 本家本元の天下の現職国務大臣がこの調子では、私の皮肉など全く霞んでしまうわけで。。。

手許の電子辞書で「憲法」という言葉の意味を調べてみると、その中に「基本となるきまり。おきて。」とありました。 けれども今日の世の中において、そんな「きまり」や「おきて」から逸脱している言説がどれだけ氾濫しているでしょうか?  以前(今年の1月2日)、コラムニストの小田嶋隆さんが以下をツイートしていました。

「『本職の宮大工を出し抜いてオレが凄い神社を建立してみせるぜ』だとか『本職の畳職人を出し抜いてオレが日本一の畳を編んでやるぞ』という人は現れないのに、 どうして医学に関しては、本職の医者を出し抜いて世間をアッと言わせる驚きの新仮説を開陳する人たちが次々と登場するのだろうかね」

サラブレッドの血統論(主に配合論)にしても、生物学を超越した理論がいくつもあることには、上記と全く同じことだと常々思っています。 また、新型コロナウイルスの医学的対応についても、医師で作家であり新刊のミステリー小説『硝子の塔の殺人』が話題の知念実希人さんが、 8月15日に以下をツイートしています。

「最近コロナ禍のせいか、すごくフランクに適当な医学デマを拡散させている人がいますけど、これだけは覚えておいてください。誤った医学情報は容易に人を殺します!!  自分の発言で間接的に命を奪うことを理解していますか? 生半可な気持ちでやっていいものじゃないですよ。心しておいてください」

われわれの世界に目を向ければ、配合に関する疑似科学的理論は、中小の牧場の経営を容易に傾かせるでしょう。 このようなことからも分かるとおり、溢れかえる情報の真偽の判別のためにも、こちらこちら でも触れたように、 視野を広めて情報を的確に読み解く力たる「リテラシー」 を自ら育むことが急激に重要になってきているのです。

今般の問題多き国務大臣の発言の行間からは国民を軽く見る姿が炙り出されましたが、 サラブレッドの血統の世界においても、遺伝の原則から完全に逸脱した言説が昔も今も溢れているわけであり、 つまり、そのような言説の発信者はこの世界の「憲法」を守っていないということにもなり、 彼らはそういう意味では、その情報の受け手のリテラシーも軽く見ているのです。

故意に事実無根の情報を発信することはまさしく「デマ」です。しかし、発信した言葉の中に意図せずに誤った情報が含まれていた場合、これはデマとは違うかもしれません。 つまり、今般の大臣発言のように、最低限は知っているべき基本的事項を自らの怠慢で知らなかった(理解不足だった) がゆえに誤った情報を発信した場合はデマとは違うのかもしれませんが、いずれの場合であれ、その情報を受け取った側はデマと同じ「負の効果」をこうむります。

普段われわれが気軽に使う SNS にしても、自らが気づかずにいつの間にかそのような「故意」とは言えない「過失」をおかしている可能性は十分にあります。 公の場への情報発信は、責任を持った態度が常に要求されるということを、我が肝にあらためて銘ずるわけです。

(2021年8月22日記)

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