ファミリーラインの樹形図作成の裏話
ファミリーライン(母系、牝系)の重要性は別途繰り返し書いているとおりです。
拙著の次版では何とか2001年以降生まれの全世界のGI馬を網羅したファミリーラインの樹形図を掲載したいと思っており、
日々精力的に加筆をしているのですが、世界のGIレース数は年間500以上(※)、そのデータは膨大です。とりあえず来年5月の発行を目標としていますが、
ちょっと厳しいかな……とも思い始めており、いずれにしてもできる限り頑張っていきます。
年間のGIレース数は500以上(※)ですが複数勝つ馬も当然おり、年間に加筆する頭数はだいたい300〜350といったところでしょうか。
現在、2010年から2018年のほぼ全てのレースの勝馬を加筆完了し、網羅総数は3000頭くらいです。
さらに2009年以前のレース分も遡って加筆していき、今年のレースも随時加筆していきます。
ファミリーラインの樹形図作成ノウハウはサイヤーラインとはちょっと違います。
サイヤーラインは、例えばサンデーサイレンスの直仔の種牡馬は多数いるように、枝葉が横(=兄弟方向)に広がるイメージなのですが、
どんな名牝といっても牝馬は生涯に産める数が限られるので、ファミリーラインの樹形図の枝葉は縦(=親仔方向)に伸びるレイアウトとなります。
できるだけ見やすく、且つ余白をできる限りつくらずにその枝をどこでカットして次のページに移行するか、これはかなりの経験とノウハウが必要です。
樹形図を加筆していると、或る特定の枝葉にGI馬が集中しいてるのが面白いように分かります。
こちらにも Urban Sea(9-h 族)や Miesque (20号族)のことを書きましたが、アーモンドアイを出した Best in Show(8-f 族)の系統の繁栄も凄い。
また、生涯に10数頭しか産めない牝馬ながら、複数のGI馬を産んでいる例もあまりに沢山見つかり、このような事実だけを見ても「母性遺伝」の凄さに気づきます。
加筆にあたってはいくつかのウェブサイトを利用しておりますが、どのサイトにもミスは見つかります。
例えば以下です:
・2017年のオーストラリアンギニー等を勝った Hey Doc の10代母は1931年生まれの Chartreuse(3-j 族)。
実は、同じ Chartreuse という名前で同じ1931年生まれの馬が 5-c 族にも存在し、或るサイトでは Hey Doc の10代母はこの 5-c 族の Chartreuse となっていた。
・2012年の独GIオイロパ賞を勝った Girolamo は11号族だが、1-a 族としているサイトもある。
これは、この馬の23代母(生年不明)と24代母(1750年生)は親仔ながらも同名の Bonny Lass だが、
同時代に 1-a 族の祖である同名の Bonny Lass(1723年)という牝馬もいたことから、このあたりで取り違えたことが原因のようである。
過去の血統記録は非常に怪しい旨は拙著に詳述しましたし、「完全な血統書など存在しない(その1)」や
「情報化社会の落とし穴」にも書いたとおりですが、上述のようなインプットミスの例は現在でもいくらでも見つかります。
人のやることなのですから当たり前と言えば当たり前です。
しかし、かなりのケアレスミスというのも散見され、せいぜいアルバイトが適当にインプットし、誰もチェックしていないのでしょう。
よって、外部のサイトをベースに加筆する際は、必ず複数のサイトでの二重チェックは徹底しています。
私がお世話になっているサイトの1つに「JBISサーチ」がありますが、残念なのは南米や南アフリカのデータが乏しく、GI馬の母系でさえ、
5代以上遡った基礎牝馬のデータさえも入っていないことがしばしばです。よって、このような母系は他のいくつかのサイトを駆使して加筆していますが、
それでもなかなかデータを入手できないこともあり、特にブラジルは最近の馬ながらも毛色不明の例が多いです。
私の樹形図に毛色が書かれていないものがいくつかありますが、これは記入忘れではないので、あしからず!
また、各国のレースは頻繁にGIに格上げになったりGUに格下げになったりの乱高下があり、この情報を的確にフォローするのも本当に大変です。
権威あるロンジンのウェブサイトでさえ非常に不完全で、
例えばニュージーランドのGIのデータは、2010年および11年、さらに15年以降の結果は掲載されていません。
まあ、ニュージーランドあたりなら他のサイトでなんとか勝馬は検索できるのですが、
現時点で依然ブラジル、チリ、ペルー、南アフリカの一部のレースの勝馬データがどうしても得られません。
よって、日本の各国領事館、現地の日本領事館にお願いのメールや手紙を出して情報収集するつもりです。完全な樹形図作成のためには徹底的にやりますよ!
世界的に最も権威ある母系の資料といえば『競走馬ファミリーテーブル』(サラブレッド血統センター編集 日本中央競馬会・日本軽種馬協会)ですが、
最新の第4巻でさえ15年も前の2004年の発刊です。版権は日本にあるようですが(こちら)、
第4巻を加筆再編して第5巻を発刊することなど想像を絶する作業であると思いますし、コストを鑑みてもビジネス性は乏しいとも思いますので、
新たな発刊は絶望的であると推察します。
そういう意味で私の樹形図は、『競走馬ファミリーテーブル』の簡易版のようなものではありますが、世界を見渡しても唯一無二のはずであり、
非常に有用で確実に評価を頂けるものと、手前味噌ながらもそのように信じております。
そのように無理矢理でも信じなければ、こんなしんどい作業はやってられないというのが本音なのですが……。
(2019年4月13日記)
(※)数は毎年変動しますが、正確に数えてみると毎年 460 前後でした。訂正します。
(2020年4月22日追記)
戻る