ブランドに惑わされてはならない
前回、「ロードカナロア」 というブランドの話をしたので、
今回はあらためて、ブランドというものの概念やその意味合いについて書いてみようかと思います。
「ブランド」 とは知的財産の一種です。
特許庁に登録する知的財産のひとつに 「商標」 がありますが、ブランドはそれよりももう少し広い概念(価値)であり、
特許庁のサイト
には以下のような説明がありました:
「従来、『ブランド』 は、商標自体を表す用語として使われることもあったが、現在では、より広く、商品・サービス、
さらには企業そのもののイメージの総体を意味するようになっている。
また、ブランドは、消費者の認知により形成されるのみならず、供給する側から積極的に構築すべきものとして経営活動の中核に位置付けられるようになっている」
真冬のこの時期、うがい薬を購入する方も多いと思いますが、濃い茶色のうがい薬はドラッグストアの店頭にいくつも並んでいます。
これらのどの商品においても、その有効成分は 「ポビドンヨード7%」 で全く変わりはなく、その添加物による 「味付け」 で各社は差別化を図っているのですが、
いずれにしてもブランド力の強い商品にばかり消費者は惹かれ、当然のことながらそのような商品の値段は高い。
有名な商品に 「イソジン」 があります。これは以前は明治製菓(現在の Meiji Seika ファルマ)が販売していたのですが、この 「イソジン」 という商標は、
実は海外の製薬会社から使用許諾のライセンスを受けていたにすぎなく、この許諾契約は数年前に解消されたので、
現在は 「イソジン」 の商標を付した商品の販売権は塩野義製薬が得て販売しているのです。
中身が変わらなくとも商標(商品)名が変わっただけで、 Meiji側の本商品の収益には大きな影響が出たはずです。
私自身、製薬会社のサラリーマンを長い間やっていたので、薬の話を始めると止まらなくなるのですが、もう少しおつき合い下さい。
傷ややけどの治療薬に 「メンソレータム」 と 「メンターム」 という商品があり、ほとんどのドラッグストアでは並んで陳列されています。
例えば、メンソレータム(75g)とメンターム(85g)の値段を眺めてみると、前者は後者よりも量が少ないにもかかわらず、
どこのドラッグストアでも倍近く高価なのです。私が3日前に立ち寄ったドラッグストアは、前者が税抜きで749円、後者が299円でした。
ここで各々の有効成分を確認してみたいと思います:
メンソレータム: dl-カンフル 9.60% l-メントール 1.35% ユーカリ油 1.50%
メンターム: dl-カンフル 9.60% l-メントール 1.35% ユーカリ油 1.30%
上記のとおり、ユーカリ油の配合割合が0.20%ほど違うのみで、添加物の組成に差はあれどもその有効性に有意差があるとはほとんど考えられません。
前者はロート製薬という有名製薬会社の商品で、その商標(商品)名もかなり有名である一方で、後者はあまり有名ではない近江兄弟社の商品です。
このことからも、商標を含めた 「ブランド」 というものがわれわれ消費者の金銭感覚をいかにコントロールしているかが分かると思います
(これらブランドの権利関係は ウィキペディア
に詳述されています)。
今日も前振りが長くなってしまいました……。
あらためて、ロードカナロアの来年の種付料は2000万円とのこと。
あくまで私の個人的な考えであることをお断りしておきますが、国内外を問わず、種付料が1000万円超の種牡馬において、その数字の1000万を超えた部分は、
その種牡馬の実質的能力とはかけ離れたブランド料にすぎない例が大半だと私は思っています。
しかし、そのような立派なブランドたる父親の名が血統書に記載されている 「商品」 こそに、こぞってバイヤーは群がるのですから、
当然にマーケットブリーダーにおいてはそのような血を求めざるを得ないのが実際でしょう。
社台のブランド戦略は本当に上手いと思うことが度々です。こちら や こちら でも触れましたが、
馬産は確たるビジネスなのですから、知的財産の専門家ともタイアップしているのは間違いないでしょう。
ブランドに左右されない配合を模索するような財力および気骨のあるオーナーブリーダーがもう少しいれば生産界も変わってくるのかもしれませんが、
なかなかそうもいきませんよね……。
いま、有馬記念を観終えて、風呂に入って、ヒゲを剃った我が口のまわり、ほっぺた、あごには、メンタームをたっぷりと塗り込みました!
くたびれたオヤジの肌もしっとりとしたところです。
(2019年12月22日記)
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