遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その2)
前回 書いたAについて今回は詳述したいと思います。
シラユキヒメの一族から立て続けにハヤヤッコ、メイケイエール、ソダシと3頭の重賞勝ち馬が出ましたが、
これら3頭の優れた競走能力は、シラユキヒメが持つ突然変異で生じた白毛遺伝子と関連性があるという仮説を立てるとしましょう。
しかし、メイケイエールは鹿毛であり、この白毛遺伝子は優性の性質を持つことから(こちら を参照)、
この馬においてはこの遺伝子は存在していないということになり、そうするとこの仮説は成り立たないということになってしまうのでしょうか?
この一族における白毛と、優れた競走能力とに関連性があるとするならば、シラユキヒメが持つ突然変異で生じた白毛遺伝子が載る染色体に、
優れた競走能力を引き出す別の遺伝子も載っている(白毛遺伝子と同時に突然変異で生じた??)ということが想像できます。
この白毛遺伝子を通常 「W」 と呼びますが、一方でその優れた競走能力の遺伝子をここでは 「Z」 としてみると、WとZは同じ染色体に同居するため、
Zに基づく優れた競走能力を持つ馬は必ずWを持つことになり、つまりその馬は必ず白毛ということになります。
ちなみに、このように2つの形質(毛色と競走能力)がリンクすることを遺伝学では 「連鎖」 と言います。
ところで、染色体は対(ペア)になって存在しますが、人間は23対の計46本、馬は32対の64本です。
実は、これらペア同士の染色体の一定部分は互いに交差するのです!
こちらの画像 は我が息子の高校の教科書 『スクエア 最新図説生物』(第一学習社)ですが、
このように、我々の細胞核内の染色体は一定部分を交換し合って新たな染色体を構築し、これにより各々は唯一無二の個体となって、生物は多様性を維持しているのです。
染色体におけるこの興味深い現象を遺伝学では 「組換え」 と呼んでいます。
上記の画像を拡大したのが こちら ですが、ここにある「A」と「B」という遺伝子はもともとは同じ染色体に載っていたのが、
組換えにより別々の染色体に載ることとなった様子が描かれています。
このように、WとZが同居した(と仮定した)シラユキヒメの3番染色体は、もう1つの3番染色体と組換えが起こることにより、
WとZは別々の3番染色体に載ることになってしまったのかもしれず、そうだとすると、鹿毛のメイケイエールの活躍も理に適ってくるではありませんか!
つまりメイケイエールは、Wを載せた3番染色体は持たない一方で、Zを載せた3番染色体を持っているという理屈です。
ちなみに、WとZはもともとは同じ染色体で同居していたとするなら、依然としてその同居率も高いと思われます。
よって依然としてシラユキヒメの白毛の血を引いた子孫からは競走能力が高いものが沢山出るかもしれず、私が生産者だったら、
この一族の白毛牝馬を積極的に導入したくなるかもしれません。
ふと、いま思ったのです。この白毛一族の多くは金子真人氏が依然として所有していますが、これはもしかしたら、
既に生物学者とタイアップしてこの一族の能力について遺伝子解析をしており、一定の有意なデータが出ているからなのではないか、と……。
以上、『サラブレ』 に寄稿した記事の続編として、私なりの仮説(妄想?)を述べさせて頂きました。
確かに上述のストーリーはちょっと飛躍しすぎかもしれませんし、これを読んで下さっている方々の大半は、
「連鎖」とか「組換え」とかいうのは難しくてついていけない……とも思っているかもしれませんね。
しかし 「連鎖」 にしても 「組換え」 にしても、これらは高校の教科書に大きくスペースを割いて説明されている遺伝の基礎です。
学校で習ったその「組換え」をおぼろげにでも覚えていれば、こちら にも書いたとおり、
「Xファクター」 などといった血統理論は現在の生物学においてはあり得ない 「おとぎ話」 だということが自ずと分かることであり、
特に生産者の方々が真摯に配合を考えるのなら、今回のような遺伝の肝を組み込んだ話にはできる限りお付き合い頂ければ嬉しいのです。
本当にメイケイエールとソダシが阪神JFに出てきたら注目ですし、もしもこの2頭がともに快走したならば、上述の仮説の信憑性も高まるような気もしてくるのです。
(2020年11月22日記)
「遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その3)」に続く
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