遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その3)
先週の阪神ジュベナイルフィリーズ。白毛のソダシがゴールに飛び込んだ瞬間は体が震えました……。
観戦していたテレビ画面からは、ゴール板を通過直後は負けたと思ったのですが!
私が知る限りでは、白毛馬のGI制覇は世界初の快挙です。これについて海外にもツイートしたところ、早速 こちら
でも書いたベネズエラ出身の米国在住の獣医師より連絡があり、シラユキヒメにて突然変異で発生した遺伝子について非常に興味があるとのことでした。
その1 および その2 に書いてきた私の仮説の要旨は、
追ってきちんと英訳してこの獣医師には伝えたいと思っています。
今般のソダシの快挙について、ネット上の記事や書き込みをざっと眺めてみると、毛色に関するごく表面上の話や、
血統論議にしても父クロフネ云々という程度で、遺伝学的見地から言及したものがあまり見当たらないような気がしました。
果たして、私が掲げた仮説のように、シラユキヒメから受け継いだ遺伝子には素晴らしい競走能力を引き出す因子があるのか?
……といった科学的視点から斬り込んで下さる方々はどれだけいたのだろうかともちょっと思ってしまったわけです。
実は、私が掲げてきた仮説についても、「こんな質問があったらこんな回答をしようか?」とか、「こんなツッコミがあったらどうしようかな……」などと、
株主総会に臨む会社役員のように若干ハラハラしながらスタンバイしていたのですが。
ソダシの父クロフネは芦毛であり、その色は白毛とは表面上は近いこともあり、
白毛遺伝子と芦毛遺伝子には共通点があるように思われる方ももしかしたらいるのかもしれませんが、
白毛の遺伝子は3番染色体に、芦毛の遺伝子は25番染色体に存在することから、全くの別ものです。
「芦毛の両親のいずれかは必ず芦毛」と言われます。しかし白毛というものが突然変異で出現し、その個体数が徐々に増加してきていることからも、
この言い回しには気をつけなければならなくなりました。
こちら に書いたように、遺伝子には優性(顕性)のものと劣性(潜性)のものがあるのですが、
サラブレッドの各毛色の主な遺伝子の優劣関係は 白>芦>鹿>栗 であり、この順列に起因する新たな毛色のトリックがあるのです。
『JBISサーチ』の シラユキヒメ一族 の毛色状況をご覧下さい。
白毛のマシュマロの2018年と19年の仔は父が非芦毛ながらも芦毛、また白毛のブラマンジェの仔メイケイフウジンも父は非芦毛ながら芦毛です。
芦毛の遺伝子たる「G」の詳細は「メジロアサマの芦毛遺伝子」にも書かせて頂きましたが、
両親ともに「非芦毛」なのに芦毛であるこれら各馬はどこからその芦毛遺伝子をもらっていたのかと言えば、
マシュマロやブラマンジェは父がクロフネであることから、そこからもらっていたのです。
白毛が存在しなかった状況下では、芦毛遺伝子Gがサラブレッドの毛色に関する遺伝子の中では最も優性だったのですが、それを凌駕する優性の白毛遺伝子は、
芦毛の発現を覆い隠していたのでした。
ソダシも父クロフネですので、もしもクロフネから遺伝子Gをもらっていたなら(メンデルの「分離の法則」により確率は50%)、
将来の交配種牡馬がどんな毛色でも芦毛の仔を産む可能性があるということです。ソダシがGをもらっているのかは、現時点で神のみぞ知るのですが!
シラユキヒメは 2-w 族です。ご存じ私は今世紀(2001年以降)に生まれた全世界のGI馬を掲載した母系樹形図を作成していますが、
もともと 2-w 族はそれほど繁栄を見せている系統ではないこともあり、ソダシ以前には掲載馬がいませんでした。
それが今般、こちら のとおり、めでたく加筆となりました。これは樹形図というより一本杉ですね……。
もしもシラユキヒメの細胞核(さらにはミトコンドリア)において、競走能力にプラスに作用する何らかの変異が発生していたのであれば、繁栄を見せていなかった 2-w 族ながら、
ソダシやメイケイエールといった枝葉が一気に伸びるなんていうこともあるのかもしれません。夢は広がります。
(2020年12月20日記)
「遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その4)」に続く
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