サンデーサイレンスの多重インクロス馬の量産開始
2月12日の京都記念で競走を中止したエフフォーリア。レース直後の映像を観ながら、予後不良だけはないように……と祈るような想いでした。
実際は、心房細動とのことで脚元には問題なく、とりあえずはほっとしたわけですが、そこに間髪を容れずにオーナーサイドが種牡馬入りの英断を下しました。
そして、その京都記念から1週間も経ない こちら の記事では、
すでに種付予約は満口とのことに、さすがに私は驚くというよりも唖然としてしまったのです。
その理由ですが、サンデーサイレンスの血が蔓延している日本の生産界において、
エフフォーリアに予約をした生産者が保有する牝馬は当然にサンデーの血を持つものが大半であるものと思われます。
つまり、すでにサンデーの3×4であるエフフォーリアとこれら牝馬との配合は、サンデーの多重インクロスとなるわけですが、
瞬時に満口ということに、生産界がそこに懸念を示す気配もない印象をついつい受けてしまったからであり、
そしてこれは、いよいよサンデーサイレンスの多重インクロス馬の量産が本格的に始まることを意味するわけです。
これに関する懸念は、昨年6月に「バイアスのかかった遺伝子プール(その4)」にも書いたとおりであり、また、
こちら は一昨年に発行の『ROUNDERS vol.5』に寄稿した「サンデーサイレンスのインブリーディング配合急増に関する一考察」
からの抜粋ですが、まさしくここに書いた「上塗り」なのです。
果たして、配合(特に近親交配の意義)に関して公にコメントを発している競馬関係者や評論家において、
このような多重となったインクロスの近交度合い(遺伝学で言う「近交係数」)をきちんと把握できているのかは、
彼らの前後の言説を眺めてみても非常に怪しいと思うのが正直なところです。
「「3×4」の呪縛」にも書いたように、「3×4」という数字に対する好意的な言説は後を絶ちません。
他方、エフフォーリアとアーモンドアイが交配した場合は
こちら のようになりますが、
「3×3」や「3×4」が単独の場合と、このような多重インクロスの場合の近交度合いの差異はどのように解釈されているのでしょうか?
さらにはキングカメハメハなどのインクロスを同時に持つ馬も加速度をつけて増えることが予想されますが、これについてもどのように考えているのでしょうか?
昨年、競馬関係者向けに発行されている非売品の或る冊子に、サラブレッドの遺伝子プールにおける多様性低下の話が書かれていたのを目にしました。
その中に「近親交配抜きには語れないサラブレッドの生産」と題された小見出しで始まる段落があったのですが、この著者は、
「よりよいサラブレッドの生産には今後も積極的に近親交配を取り入れる必要がある」という趣旨でこれを書いたのか、
それとも「通常の配合を実践していても、多様性の低下した遺伝子プールでは、どのみち近親交配は避けられない」という趣旨だったのか、
その文章からは把握できませんでした。仮に前者であったならば、私としてその考えには同調できません。
「バイアスのかかった遺伝子プール(その6)」に書いた「ボトルネック効果」が、すでに来るところまで来てしまったと考えるからです。
このような状況下、サークル内に流れる近親交配に関する言説について、それは誰が書いているのか?
それはどこの組織やメディアから発信されているのか? という視点を持っていただきたいのです。
例えば、一口馬主クラブにおいては、このようなインクロス馬が多数いるわけですから、これらクラブの会報などでは、
近親交配のリスクに関するような記事はまず掲載されないと思っていいでしょう。利益に影響するからです。
そんな競馬サークルの全体を、おのおのの組織や関係者の置かれた立場や利害を理解し、バランスよく眺めることが、やはり肝要だと思わずにはいられないのです。
(2023年3月1日記)
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