驚きました……
昨日のツイッター(いまは「X(エックス)」と呼ぶ?)で池添謙一騎手が、
「サイン メルカリで売るやついたんでもう書くのやめますね そんな奴のためにサインしてるわけじゃないから」(←原文引用)と書かれていて、
ネットのニュースでも取り上げられていました。僭越ながら、その気持ちにちょっと同調してしまうことが数日前にあったのです。
「蓑虫屋」という競馬関連書物を扱うネット古書店があります。
私は何度もお世話になっており、牝系の最重要資料たる『競走馬ファミリーテーブル』をはじめに、
こちら でも触れた昭和17年(1942年)に日本競馬會が発行した
『フイガー・システムによる競走馬の生産』や『ジェネラル・スタッド・ブックの歴史』などの書物は蓑虫屋さんから購入しました。
数日前、血統関連の書物の掘り出し物はないかなと、ふと蓑虫屋さんのウェブサイト中の「血統・成績」のページを覗いてみたのですが、
そこでビックリ仰天してしまったのです!
こちら をご覧ください。私の本が4冊ほど掲載されています。
ほんのちょっと前に見た時には4冊とも載っていなかったので、ごく最近に出品されたのでしょう。つまりこの4冊は同じ人が蓑虫屋に持ち込んだと想像します。
『サラブレッドの血筋』は市販してきているので、このようなところに出品されることには違和感はありません。
その一方で、『サラブレッド種牡馬系統』はもう10年近く前に、
それこそ自宅のプリンターで印刷したものを印刷サービスショップたる「キンコーズ」でせいぜい10部程度を冊子化して、
懇意にしている人たちだけに無償で配ったプライベートな代物であり、自分でも忘れかけていた冊子なので、本当に、驚愕というか唖然としました。
そんな身近な人の中で、いったい誰が蓑虫屋に? とちょっと考えてみたのです。
この4冊とも漏れなく差し上げた人の中に、この店のことをよく知っている人がおり、その人かなと……。
好意的に解釈すれば、私のこれら書物が不要になったものの、そのまま廃棄するにはもったいないので、
有意義にリサイクルをということだったのかもしれません。それはそれで有難い話ですし、とても嬉しいことです。
しかしやはり、懇意にしている人にだけプライベートに配ったものが、このように独り歩きしていたことを目の当たりにすると、
なんとも言葉に表現できない非常に不思議な気持ちに陥ってしまったのです。
まぁ、池添騎手の気持ちがすごくわかったような気になってしまったのは、ちょっとおこがましいのですが。
ご存じのとおり私は別途、ミトコンドリアの遺伝子は母性遺伝することなどから母系の重要性を唱えていますが、私はそれを公に唱え始めてからまだ10年も経ちません。
上記冊子のことにも触れながらその話は「持論の在り方を考える」に書きました。
ちなみにこの冊子は、父系の樹形図とともに、近親交配に関する解説などや雑感調に書いたものをまとめたものであり、
確かに『サラブレッドの血筋』の前版(第2版)までは父系樹形図も掲載してきたことからも、現在の我が活動の「原点」のようなものでした。
ところで、「誤解を与えないように心がけたい」にも書いたように、近親交配の意味で「クロス」という言葉を使うのは適切ではないのですが、
いまこの冊子をあらためて取り出してパラパラとめくってみると、あの頃は自分も深慮なく周囲に流され使っていました。すみません。
先日発売の拙著『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』の第2章「近親交配(インブリーディング)」中の
「正しい用語」の小見出しで始まる部分でも、近親交配の意では「インクロス」という言葉を使うべき話などを書きましたが、これは自戒の念もあるのです。
そして、今般あらためて思ったのは、たとえ身近な人への発信にしても、それはどのようなかたちで転送されるかはわからないので、
常に責任を持った内容を心がけなければならないということです。
(2023年8月5日記)
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