後付けの理屈
日本時間の今朝、2日間に渡るブリーダーズカップ全 14 レースが終了しました。
個人的に応援していたBCフィリー&メアスプリントに出走したメイケイエールは残念な結果でしたが、一方で、
BCターフを制したディープインパクト産駒の英ダービー馬たる Auguste Rodin の走りは素晴らしかったですね。
競馬ライターの平松さとしさんがSNSで、「オーギュストロダンはディープインパクト産駒というのばかりが話題になりますが、お母ちゃんもGI馬」と書いていましたが、
今世紀生まれのGI馬を網羅した我が母系樹形図において、
こちら のように周囲が下線(=今世紀生まれのGI馬)であふれる馬は稀有中の稀有です。まさしく華麗なる血筋です。
先週は府中の天皇賞でイクイノックスの異次元の走りを目の当たりにしました。
その父たるキタサンブラックが出現するまでは、ディープインパクトの全兄たるブラックタイドの父系が繁栄するなどと思っていた者はほぼいなかったと思いますが、
「たまたま」に書いたように、北島三郎氏がこの馬を見初めなかったならば、そして即座に庭先取引をしなかったならば、
日の目を見ることもなかったのかもしれないのです。すべてがたまたまなのです。そしてやはりついつい思ってしまうのです。
仮にブラックタイドにディープインパクトの交配相手と同レベルの名牝群を連れてきていたら、どうなっていただろうかと。
ところで一昨年、治郎丸敬之さんが編集長をやっている『ROUNDERS vol.5』に「サンデーサイレンスのインブリーディング配合急増に関する一考察」と題したものを寄稿しました。
その治郎丸さんとはかなり前から懇意にさせていただいているのですが、お互いに家が近いにもかかわらず、実は一度もお会いしたことがなかったのです。
そんなこんなで先月、いまさらながらの初対面の挨拶の意を込めて2人でランチをしました。
公には言えない裏話もしながらいろいろと盛り上がり、楽しく有意義な時間を過ごしました。
その際、治郎丸さんの最新作『パドックの教科書』(イカロス出版)を頂戴しました。
私は馬体を見る眼は素人であるので書かれている内容は目から鱗(うろこ)であり、感服する箇所が多々あったのですが、
その中でも、血統、ひいてはあらゆる物事に対して持つべき視点・姿勢ではないかと思う治郎丸さんの言葉がありましたので、以下に記したいと思います。
まず、「人気している馬は強く見え、人気のない馬は弱く見えてしまいます。調子が良いと言われている馬は良く、悪いと言われている馬は悪く見えてしまうのです。
情報によるバイアスが僕たちの目を曇らせるのです」(7頁)とあったのですが、大きくうなずき、
まさしくこれは私が「二重盲検試験(ダブル・ブラインド・テスト)」に書いたことでもあります。
「パドック解説者も決して人気馬ばかりを挙げているつもりはなく、人気だから良く見える馬を挙げているにすぎません。
逆説的ではありますが、パドックで推奨した馬同士で決着するということは、パドックを純粋には見ていないのかもしれません」(8頁)とのことですが、鋭いところを突いています。
治郎丸さんは川崎競馬の月曜のパドック解説を担当していますが、自らを「即興パドック解説者」と呼び、出走馬の前走の着順やタイム、追い切りの動き、
他馬との力関係等について、敢えて知らないようにしているとのこと(166-167頁)。
「情報があればあるほど、僕たちの馬を見る目は曇っていく。これは人間の避けがたい習性である気がします」(172頁)とありますが、
そんな習性を徹底的に排除したのが、それこそ上述のダブル・ブラインド・テストなのです。
「ほとんどの競馬ファンや関係者は推奨馬が馬券になったか(的中したか)を期待しているため、意識的であっても無意識であっても、
パドック解説者も推奨馬が馬券に絡むという結果を望むようになります」(174頁)、そして
「パドックの良し悪しとレースの結果は常にストレートに結びつくわけではないという意味です」(175頁)とあり、これは私が
「近親交配(インブリーディング)とは何か?(その10)」に、あくまで競走馬の個々の成績という観点においては、
安直にインブリーディングとアウトブリーディングに良し悪しをつける発想は捨ててください、と書いたことと相通ずるものがあります。
治郎丸さんは「パドックはあくまでもひとつの要素にすぎません」(185頁)とおっしゃっていますが、馬体にしても、血統にしても、
これらはサラブレッド個々のキャラクターの一部にすぎないということを忘れてはなりません。それぞれがパズルの1ピースであり、それ以上ではないということです。
これを書いている今日は、バファローズとタイガースの日本シリーズの第7戦。最終決戦です。
過日の第4戦では、バファローズの中嶋監督の採った最終回の満塁策が結果として裏目に出て、各種記事やネットではさんざんなことが言われた様子です。
「良い結果に出れば正解、悪い結果が出た方は不正解」と安直に見られてしまうのは競馬予想も同じという旨のコメントがSNSにありましたが、
まさしくこれは、コインを投げて表が出たとして、表が出る方に賭けた者は素晴らしい判断力があると周囲が絶賛するようなものでしょう。
「たまたま」にはビル・ゲイツの話を引用しましたが、これも同様のことなのかもしれません。
つまり、世のあらゆる物事をついつい後付けの理屈で評価してはいないだろうか? そんな冷静な視点をきちんと持つ必要があるような気がしたのです。
治郎丸さん、重ねて先日は有難うございました。今度またゆっくりとランチをしましょうね。
(2023年11月5日記)
冒頭に書いたメイケイエールのブリーダーズカップ参戦に関する是非が現在ネットを賑わせていると聞きましたが、まさしくこれも後付けの話であり、
勝っていればみんなそろって「是」という見解だったのでしょう。
(2023年11月7日追記)
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