遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その9)

遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その8)」を書いたのは昨年の11月、 ハヤヤッコがアルゼンチン共和国杯でいぶし銀の走りを見せた(魅せた)直後です。 そこに書いたように、私の気持ちの中では、ハヤヤッコは種牡馬になってほしいと思う馬の筆頭です。

昨年は、有馬記念を最後に引退して種牡馬入りを期待したのですが、現役続行ということで、正直なところ残念な気持ちでした。 昨年末の時点では、種牡馬としての道は開けていないことを認識せざるを得なかったということです。

そして、先日のダービーデーの目黒記念。9歳という年齢からも、何着でもいいから、ただ無事にコースを回ってきてくれというのが私の願いでした。 が、嫌な予感が的中し、直線入口で故障発生……。 4月の香港の悪夢がまたか……と思いながら、続報を必死に拾い続けたところ、命には別条なしとの報が入り、とりあえずは胸をなでおろしました。 ディー騎手が故障発生後に迅速かつ適切に対処してくれた結果だと思います。本当に感謝です。 競走中止については、その程度には差はあれど、2年前に「臆病になる勇気」を書いたことも思い出しました。

ところで、これだけの馬がなぜ9歳になっても走り続けるのかを、ちょっと考えてみたのです。 オーナーの金子さんにしても、この馬には種牡馬になってもらいたいという思いはとても強いのではないか?  しかし、その受け皿がなかなか見つからないのではないか? だからこそ9歳になっても現役続行だったのではないか?  もう一花咲かせて確たるブランドを確立すれば、種牡馬の道は開けてくることを関係者一同は期待したのではないか……?

ハヤヤッコは競走生活にピリオドを打ちました。ということで、注目はこれからです。

私が切にハヤヤッコに種牡馬になってもらいたいと思う理由は (その8) に書いたとおりでり、 さらには「ベスト・トゥ・ベストの配合はベストなのか?」に書いたようなこともあります。 いずれにしても、やはりその一番の理由は、「遺伝学的にも興味深い」という言葉を冠にしてシラユキヒメ牝系の話を計9回書いてきたように、 学術的に非常に興味があり、同じシラユキヒメ牝系でもソダシなどの牝馬と違って牡馬なのでその血を継承する個体を多数得られるわけで、 探究のサンプル数が増えることにより、新たな科学的発見の機会が増えるのではないかと期待してしまうのです。

拙著『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』でも、「第7章 我が仮説」中の小見出し「仮説(その4)……偉大なるシラユキヒメの母系」 で始まる箇所では、その1 その2 その3 その4 その5 と続くとおり、9ページ余りに渡り長々と書いてしまったのですが、それだけ私はこの牝系の能力を科学的に探究する意義があると思っているのです。 拙著の初稿は当初の予定よりかなり枚数が増えてしまったので、最終的に他の章や項の記述を少し切り詰めたのですが、 このシラユキヒメ牝系の話はまさしく力説したかったのです。

いまはただ、種牡馬ハヤヤッコの誕生を願うばかりです。

(2025年6月9日記)

ハヤヤッコはノーザンホースパークで功労馬として余生を過ごすとの報が入ってきました。 ずっとハヤヤッコの種牡馬入りを願ってきた身としては残念な知らせではありますが、関係者がこの馬の将来を深く考えて出した結論でしょうし、 この馬にとっては最も幸せな選択だったのだろうと思っています。いままで感動を有難う。お疲れさまでした。

(2025年6月19日追記)


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