エピファネイアという種牡馬におけるジレンマ(その2)
昨日の阪神JFはエピファネイア産駒のサークルオブライフが快勝しました。
ご存知のとおり、この馬はサンデーサイレンスの3×4のインクロス持ちであり、
今回はこれに絡めて、4月に書いた (その1) の続編としたいと思います。
まぁ、続編とは言いつつも、サンデーサイレンスの曽孫たるエピファネイアやモーリスの産駒はサンデーの3×4ばかりになっている懸念は、
別稿でも何度も何度も何度も何度も書いてきました。
先月発売の
『ROUNDERS vol.5』に寄稿した
「サンデーサイレンスのインブリーディング配合急増に関する一考察」でも遺伝的多様性低下の見地から、
何らかの対策なしには日本の生産界の健常性は危うくなる旨の警鐘を鳴らし、
「確かにデアリングタクトやエフフォーリアはサンデーの3×4です。これだけ量産された金太郎飴なのですから、
その中には他とは違い優れた『味』を出すものは当然のことながらいるでしょう。そうするとサークル内では『3×4はオーライ!』
のような空気がますます支配してくるわけです」と書きましたが、今般新たにサンデー3×4のエピファネイア産駒がGIを勝ったことから、
そのような空気がさらに勢力を増さないか、かなり心配です。
そんな中、エピファネイア産駒においてはサンデーのインクロス持ちの方が成績が良いなどと言う血統論者が現れ始めているようですが、
果たしてそのような論者は、すでにエピファネイア産駒の大半がサンデーのインクロス持ちであるという現状をきちんと理解しているのでしょうか?
デアリングタクト、エフフォーリア、サークルオブライフに続き、これからもサンデーサイレンスの3×4持ちのエピファネイアの優秀産駒はたくさん出てくるでしょう。
しかしそれを好意的に見続けてしまうと、
こちら に書いたような「サイレントキラー」にいつのまにか侵蝕されて手遅れとなってしまうかもしれないのです。
或る特定のインクロスパターンで何頭かの優秀馬が出たら、そのインクロスのお蔭と短絡的に思ってしまっていませんか?
その馬の血統表において、インクロスしている祖先の馬は太字や色字にされるので、どうしてもそこに目が行き、そしてその効果だと思い込んでしまいがちです。
すると、もっぱらそこに「因果関係」があると帰結する言説があふれるわけですが、
そもそもこれは、その優秀馬の産出に対してそのインクロスは弊害にならなかったというような別方向からの視点が欠落しているということでもあるのです。
近親交配とは、 生まれてくる仔が父方と母方から同じ「劣性(潜性)遺伝子」を二重(ダブル)にもらうことで、
この遺伝子が誘発する形質(=生物的特徴)は優性(顕性)遺伝子に隠されることがなくなることを期待する行為ですが、
ウィキペディアの「インブリード」
の中の「遺伝学上の見地」の項には、「劣性遺伝子は不利なものがほとんどである」とあります。
しかし劣性遺伝子には生体に有利に働くものもあるはずで、それが近親交配を実践する根拠でもあるのですが、
いずれにしても不利なものの方が多いことについては遺伝学上疑う余地はないでしょう。
それなのに、そんな劣性遺伝子をダブルで持たせることに対して喜々としたコメントばかりが、摩訶不思議なまでにサークル内にあふれているのです。
要は、その方が楽しいからです。「競馬=エンタメ」だからです。
金太郎飴よろしくこれだけ大量生産されたサンデー3×4のエピファネイア産駒ゆえに、(その1) にも書いたように、
エピファネイアという種牡馬は近親交配につきまとう「負の作用」にも屈せずに優良産駒を出す素晴らしい種牡馬だ、
という視点もあって然るべきではないですか? これは こちら に書いたラーメン屋の話のごとくです。
繰り返しますが、そのように冷静に別な視点を持てるかどうかが、今後の日本の生産界を左右する大きな分水嶺だということです。
あらためて、競馬はエンタメです。皆が非日常の楽しいことを追求することによって成り立っています。
よって、ネガティブな警鐘を鳴らせば鳴らすほど、私は煙たがられてしまうのは重々承知しています。しかしです、本当にこのままで良いのでしょうか?
このまま現状を放置すれば、その楽しいことへの追求に対する足かせになるかもしれないのです。
ほんのちょっとだけで良い、このような現状をもう少し理解し、そしてどのようにしていくべきなのかについて一緒に考えてみませんか?
最後に……。こちら では、 モーリス産駒も7、8割がサンデーサイレンスのインクロス持ちながら、
モーリス産駒初のGI馬となったピクシーナイトはサンデーのインクロスを持っていないので非常に興味深いと書きましたが、
昨日の香港スプリントの大アクシデント……。直後の錯綜した情報からは、この馬も予後不良かと一瞬諦めかけたのですが、骨折は見つかったものの軽症の様子で、
少なくとも将来の種牡馬としての可能性はつながったことに、とりあえず胸をなでおろしたところです。
(2021年12月13日記)
ネットケイバの柏木集保氏のコラム『重賞レース・回顧』の昨日分は阪神JFの回顧であり、
「エピファネイア産駒なので当然のようにサンデーサイレンスの『4×3』」とありますが、
サークル全体がこれを「当然」と思ってしまえば、そこに大きなリスクが潜むということです。
(2021年12月14日追記)
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