バイアスのかかった遺伝子プール(その1)
旺文社の『生物事典』で「遺伝子プール」の意味を調べてみると、「メンデル集団の全個体がもつ遺伝子の全部」とのことです。
次に「メンデル集団」の意味を調べてみると、「集団遺伝学が対象とする生物集団。この集団の中では、各個体間の交配が自由に行われ、
集団に対する個体の出入りがないとみなされるような十分多数の個体数からなる同種生物の集団」とあります。
今日は冒頭から堅苦しい生物学の話で恐縮ですが、上記の生物事典の説明から、今回のコラムのタイトルの「バイアスのかかった遺伝子プール」
という言葉に違和感を抱いた方がいらしたら素晴らしい!
そうです、もう一度上記事典の説明文をお読み頂きたいのですが、「各個体間の交配が自由」とあることから、
「バイアス」という言葉の意味を「その『自由』と相容れない外部からの作用」と理解した場合、
その作用が及んだ生物集団の遺伝子群を「遺伝子プール」と呼べなくなってしまうわけです。
しかしです、この「遺伝子プール」という言葉はあくまで慣用的に生物学界で使用されてきたものと私は理解しており、良い意味で弾力的であるべきです。
以上、何が言いたかったかと申せば、人為的に交配相手を決めるサラブレッドの遺伝子群はバイアスありきであり、
というか、在来種にそんなバイアスをかけて創出したのがサラブレッドであり、
そのサラブレッドの遺伝子群を「遺伝子プール」と呼ぶのは不適切であるという頭の固〜い偉〜い「A級科学者さま」からのつっこみが幻聴のごとく耳をよぎったため、
これを事前に回避する意味で今日は前置きが長くなってしまいました(笑)。
ちなみに、こちら や こちら で言及した『BLOODHORSE』の記事においても「the Thoroughbred gene pool」
という言葉を使っています。
先日のスプリンターズSはモーリス産駒のピクシーナイトが快勝しました。
私は、しつこいまでに何度も何度も別稿(例えば こちら や こちら)で、
サンデーサイレンスの曽孫たるエピファネイアやモーリスの産駒はサンデーの3×4ばかりになっている懸念を書いてきましたが、
実にモーリス産駒の7、8割がサンデーのインクロス持ちである中、
モーリス産駒初のGI馬となったピクシーナイトはサンデーのインクロスを持っていないことに非常に興味深いと思ってしまったのです。
確かに今回はたまたまなのかもしれず、ピクシーナイトはモーリスの初年度産駒でもあることから、もう少し観察していく必要はあります。
ただ、こちら でも書いたとおり、同じモーリス産駒ながら相対的に近親交配になりがちな日本での産駒よりも、
シャトルの先でもうけた産駒の方が活躍するなんてことがあったなら、
近親交配の意味、その中でも特にサンデーサイレンスのインクロスに対して生産界はもう少し理解を深め、真剣に対処を検討すべきでしょう。
あらためて認識頂きたいのは、このようにエピファネイア、モーリス、リオンディーズのようなサンデーの曽孫種牡馬がサンデーの孫牝馬の受け皿にされている事実は、
日本のサラブレッドの「遺伝子プール」に過度のバイアスがかかっていることが下地になっているということです。
今年スタッドインしたサートゥルナーリアにしても同様の状況だと推察します。
こちら で書いたとおり、
さらには こちら でリンクを張ったキャロットクラブの会報4月号への寄稿でも書いたとおり、
私はシーザリオの息子種牡馬たちには限りない可能性を感じています。
実際、エピファネイアの代表産駒たるデアリングタクトも、エフフォーリアも、サンデーの3×4のインクロス持ちです。
確かに一定数でこのような優秀産駒は自ずと出ます。しかし、このあまりにもいびつな遺伝子プールに基づく似たり寄ったりのインクロス配合パターンが、
彼らサンデー曽孫種牡馬のさらなる成功に立ちはだかってはいないでしょうか?
先週のサウジアラビアRCを勝ったディープインパクト産駒のコマンドライン。
母コンドコマンドは米GIスピナウェイSの勝馬でもありデビュー前からかなりの評判でしたが、この馬は5代前までに全くインクロスがありません。
ちなみに4年連続でディープ産駒がダービーを勝っていますが、そのうちのワグネリアン、コントレイル(※)、シャフリヤールも5代前までにインクロスがありません。
これもたまたまだとは思いますが、しかし、人気を博してかなりの種付数である上記のサンデー曽孫種牡馬たちにおいて、
実際にこのようなアウトクロス配合はどれだけあるのでしょうか? そのような観点からも日本の現状を眺めて頂きたいと思うのです。
(※)コントレイルは Fappiano の4×5では? と思った方もいるかもですが、インクロス(近親交配)とは父方と母方から「同一の遺伝子」をもらうことです。
よってこの馬は Fappiano のインクロスを持たず、その近交効果は皆無です。こちら も参考まで。
(2021年10月15日記)
ついでながら、今日の秋華賞を勝った父ディープインパクトで母アパパネのアカイトリノムスメも5代前までに全くインクロスがありません。
(2021年10月17日追記)
「バイアスのかかった遺伝子プール(その2)」に続く
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