エピファネイアという種牡馬におけるジレンマ(その1)
エフフォーリアが皐月賞を快勝しました。キャロットの所有馬であり、私として丁度キャロット会報の今月号にエピファネイアの種牡馬の可能性を書いたところなので、
このタイミングの良さに本来は喜ぶべきところなのですが、実はそんなポジティブな気持ちになれないのです。
キャロットの会報に書いたことは、「名牝を母に持つ名種牡馬(その1)」に書いたことと要旨は同じであり、
私は、偉大なる母シーザリオの息子たるエピファネイア、さらにはリオンディーズ、サートゥルナーリアという種牡馬には高いポテンシャルを感じるわけです。
他方、「第4の胸騒ぎ」や「セレクトセールの上市馬のリストを見ながら……」にも書いたとおり、
サンデーサイレンスの曽孫たるエピファネイアやモーリスの産駒はサンデーの3×4ばかりであり、尋常ではありません。完全に常軌を逸しています。
あらためて、先日入手した『スタリオンレヴュー2021』で昨年(2020年)のエピファネイアの種付数 240 におけるサンデーのインクロス状況をチェックしてみた結果
(黄は3×4、桃は4×4)の内訳が以下です。
(2×4) 1 (0%)
(3×4) 141 (59%)
(4×4) 25 (10%)
167 (70%)
2年前からはほんのちょっとだけ割合が下がっていますが、これは単に輸入牝馬の割合が増えたことによるものであり、内国産牝馬を相手にした場合は相変わらずです。
「セレクトセールの上市馬のリストを見ながら……」で私は、
エピファネイアやモーリスを「金太郎飴製造ロボット」と表現したことはちょっと行き過ぎだったかと反省の気持ちがある反面、
とても的を得た比喩だったな……と我ながら感心もしているのです。
アリストテレスが来週の天皇賞を勝ってしまえば、益々サンデーの3×4は好意的に見られてしまうのでしょう。その一方で、ちょっと別方向からの視点も持ってみてほしいのです。
つまり、「エピファネイアという種牡馬は、近親交配につきまとう『負の作用』にも屈せずに優良産駒を出す素晴らしい種牡馬だ」
という考えもあって然るべきではないですか?
これだけサンデーの3×4馬の数は莫大なのですから、その中からデアリングタクトやエフフォーリアのような良い馬は一定数で自ずと出ます。
そうすると「「3×4」の呪縛」でも書いたように、サークル内では「3×4はオーライ!」のような空気が益々支配してくるわけです。
ファンのみならず調教師やオーナー(一口馬主を含む)が3×4を好意的に受け止めてしまうと、さらにブリーダーはそれに便乗してきます。
まさしくアーモンドアイの初年度の交配相手としてなんら迷いなく(?)エピファネイアが選ばれたのが良い例でしょう。
そうすると、近い将来、今度はサンデーサイレンスのインクロスで生まれた馬にまたサンデーの血を持った馬を交配する「上塗り」も避けられなくなり、
さらにはサンデー以外のキングカメハメハ等のインクロスも持つ「多重インクロス馬」であふれることとなり、
日本の生産界は甚だしいバイアスがかかった遺伝子プールとなり(=遺伝的多様性の低下)、後戻りも難しくなる「負のスパイラル」に突入していくわけです。
いまこれを書きながら観ていたフローラSを勝ったクールキャットなどサンデーの3×3ですので、益々拍車がかからないか心配です。
「近親交配(インブリーディング)とは何か?(その1)」を書いたのはもう3年も前です。
JRAの機関誌たる『優駿』が、オルフェーヴルの産駒なら無条件に「ノーザンテースト 4×5」と表記していること、
つまり競馬サークル全体に近親交配の誤解を蔓延させていることに対して私は非常な懸念を抱いていると書きましたが、
それが依然として修正されないのが現実であることからも、今般あらためて提議させて頂いた上記の問題は、
「近親交配(インブリーディング)とは何か?(その6)」等でも触れた競走馬理化学研究所の研究者諸氏の論文が示唆するように、
もう国内で自力では解決できないところまで来てしまったのかもしれません。
「遺伝的多様性の低下に対する米国の方策」と題したものはこれまでに
その1、その2、その3、その4、その5
と書いてきました。米国のような種付頭数制限策が即遺伝的多様性の低下につながるわけではありませんが、
日本の生産界がさらなる負のスパイラルに入り込まないためには、確かな危機意識のある主要国の組織からのなんらかの圧力をかけてもらうしかないのかもしれません。
参考まで、サンデーサイレンス産駒のGI馬の過半数は5代前までインクロスがなかった話は「やはり「真実」は面白くない」に書きました。
誤解頂きたくないのは、そこに因果関係や相関関係が見出せるとも、単純にアウトクロスの配合をすれば良いとも言っているわけではありません。
ただ、それにしてもエピファネイアという種牡馬において、もっともっとアウトクロスの配合になる牝馬に恵まれれば、
もっともっと多数の優秀馬が出るかもしれないのにと思ってしまったのです。
(2021年4月25日記)
いま、サンデーサイレンスの近親交配馬急増の危惧に関する寄稿依頼を受けており、その原稿を書きながら、
同じサンデーの曽孫たるモーリスの昨年(2020年)の種付数 163 におけるサンデーのインクロス状況もチェックしてみました(黄は3×4、桃は4×4)。
(3×4) 105 (64%)
(4×4) 21 (13%)
126 (77%)
モーリスの方は2年前より割合がさらに高くなりました。
また、「サンデーサイレンスのインクロスで生まれた馬にまたサンデーの血を持った馬を交配する『上塗り』も避けられなくなり」と上で書きましたが、
とうとう こちら のような配合例も現れ始めました。
(2021年5月5日追記)
「エピファネイアという種牡馬におけるジレンマ(その2)」に続く
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