名牝を母に持つ名種牡馬(その1)
昨年末の3つの2歳GIレースですが、阪神JFも朝日杯FSも勝ったのはともにGI馬を母に持つ馬であり、
ホープフルSの入着馬の母系も こちら で書いたとおりです。
そして先週の皐月賞。2頭のGI馬がゴール前で競り合う本当に見応えある素晴らしいレースとなりましたね。
その一方で先々週の桜花賞ですが、勝ったデアリングタクトの強さも脳裏に焼きついて離れません。
母系を眺めてみると、そこそこ周囲に活躍馬はいるものの、目立つところは Impetuous Gal を4代母として共有する、
既に繁殖として輸入されているデルマーオークス馬のパーソナルダイアリーくらいで、上述のGI戦線を賑わせた馬の母系と比べると若干の見劣りがあります。
ここで、ふと、この馬の父であるエピファネイアという新種牡馬の存在、そして、その母シーザリオの存在が気になってきました。
ご存知のとおり私は、母系の重要性を説くキーワードのひとつに 「ミトコンドリア」 を掲げておりますが、
ミトコンドリアの科学的意義を唱えるには多角的な思考が要求されます。
こちらの 「ミトコンドリアの遺伝子」 にも書いたのですが、
忘れてはならないのは、遺伝子の質というより量の観点に立つと、ミトコンドリア自体の形成や機能維持に関与しているのは、
ミトコンドリア自身の遺伝子よりも部外者たる核の遺伝子の方がはるかに多いということです。
ところで、あらためて気づくのは、母親が優秀な名種牡馬が多いということです。
近年の主要国のリーディングサイヤーのリスト中からそんな馬をざっと調べてみたところ、Kitten's Joy (添付参照)、
Nathaniel (添付参照)、Into Mischief (添付参照)がありました。
私の母系樹形図は、違う種牡馬を相手に複数のGI馬を産んだ牝馬を太字にしていますが、ご覧のとおり、上記各馬の母親は太字です。
別稿では繰り返し書いてきましたが、繁殖牝馬が生涯に産める仔の数はせいぜい10頭余りであって、
同じ種牡馬を相手に複数のGI馬を産むだけでもあまりに凄いのに、違う種牡馬を相手に複数のGI馬を産むことの意味を看過してはならないのです。
つまり、Nathaniel の母も Into Mischief の母も3頭もGI馬を産んでいることは尋常ではなく、
さらに言えば、Into Mischief の母 Leslie's Lady が産んだこれら3頭の父親が、そしてシーザリオが産んだ3頭のGI馬の父親が、全て違うということはとてつもないことなのです。
究極の例が、偉大なる Urban Sea を母に持つ Galileo。
母性遺伝をするミトコンドリアの遺伝子なので、牡である Galileo は、母 Urban Sea から授かったそのミトコンドリア遺伝子を自身の産駒に授けることはできませんが、
半弟の Sea the Stars も沢山の優秀産駒を出しているように、「Urban Sea から授かった特別なもの」 を彼らはその産駒にも確実に伝えているような気がしてならないのです。
「ミトコンドリアの遺伝子」 で私は以下の仮説を掲げました:
「Urban Sea は、優秀なミトコンドリア遺伝子(以下@)を持っていたと同時に、これを的確に活性化させる核の遺伝子(以下A)も持っていた。
Galileo や Sea the Stars は、Urban Sea から@もAも授かったが、@は産駒に授けることは不可能である一方、Aは産駒に授けることができる。
つまり、母系が優秀で産駒成績が優れている種牡馬は、自身の交配相手が持つミトコンドリア遺伝子と有意義に 『協働』 するような、
自身の母から授かった遺伝子を産駒に授けているのではないか?」
ここで気をつけるべきは、「父」 と 「父系」 を区別して考えなければならないということです。
率直に言えば、サラブレッドの配合の考察において、「父」 を論じる意味はあるものの、「父系」 を論じる意味はほとんどないと私は考えており、
これについては、こちら や こちら でも書いたとおりです。
デアリングタクトの力走を見て、今後のエピファネイア産駒には注目していきたいと思うと同時に、
同じくシーザリオの遺伝子を授かっているリオンディーズの産駒にも気を留めたいと思います。
さらに、ちょっと気が早いですが、間違いなく種牡馬になるはずのサートゥルナーリアの将来の産駒にも非常に興味が湧いてくるのです。
(2020年4月25日記)
今日のオークスも、デアリングタクトの走りは本当に素晴らしかったですね!
(2020年5月24日追記)
「名牝を母に持つ名種牡馬(その2)」に続く
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