一流が味わう寂しさ

昨年末より海外から拙著の注文を多数頂戴して嬉しい限りで、こちら に書いたUAEからの5冊の引き合いもようやく正式発注をもらい、3日前に発送したところです。

その発注元のドバイ在住の大富豪(と私は思っている)が私と電話で話もしたいとのことで、一昨日、お互いの自己紹介を含めて和気あいあいと会話をしました。 氏は、アイルランドとアメリカ(ケンタッキー)に繁殖牝馬を保有しており、配合種牡馬を熱心に模索しているようで、 その中でも現在イタリアで繋養されているディープインパクト産駒たるアルバートドックに非常に注目しているとのことであり、 こちら のウェブサイトを紹介してくれました。 3月にはイタリアにアルバートドックを見に行くとのことです。氏曰く、その産駒の中でも現3歳の Tempesti がベストで、 この馬のレース動画は こちらこちら とのことであり、今年の伊ダービーの最有力候補だと言っていました。

彼方のドバイのホースマンとそんな話をしていてあらためて思ってしまったのは、ディープインパクトの人気は世界的にもすごいな……ということで、 こちら でディープを金メッキ呼ばわりした私など世界中から槍が飛んできそうです(冷汗……)。 そんな中、ペルシアンナイトは種牡馬の道を模索したもののニーズがなく乗馬になるとの情報が入ってきました。 日本への他国からの種牡馬の引き合いでさえディープインパクト、キングカメハメハ、ロードカナロアの産駒が中心で、 ハービンジャーの産駒はハードルが高いというような話を耳にしたことからも、 こちら にも書いたように、 Kジョージ六世&QエリザベスSを勝ったようなバリバリの舶来種牡馬よりも内国産種牡馬の方がもてはやされる時代が現在だということには、 オールドファンはタイムスリップしたような隔世の感に包まれてしまうわけです。

そのように日本の馬が高評価を受けているかのごとくの空気に惑わされたこともあり、こちら では 「日本はようやく世界にも認められたという肌感覚を味わうことができました」と思わず書いてしまったのですが、 しかしやっぱりそれは甚だしい勘違いだったかな……とふと思ったのです。

毎月私は、日本軽種馬協会の機関誌『JBBA NEWS』でサラブレッドの輸出入状況を確認しているのですが、 こちら に書いたような現実もあり、繁殖牝馬は輸入の方が圧倒的に多いのが現実です。 その昔、種牡馬こそ輸入一辺倒で、一旦日本に種牡馬として輸入された馬の系統は繁栄することもなく、輸入後の繋養状況も的確に発信してこなかったことからも、 「種牡馬の墓場」と言われてしまったこともありました。 それが上述のとおり時代は全く変わったわけですが、けれどもそれはあくまで種牡馬という側面の話にすぎないということです。 先日、エクリプス賞(米年度代表表彰)最終候補が発表され、BCディスタフを制したマルシュロレーヌが最優秀ダート古牝馬に、 BCフィリー&メアターフを制したラヴズオンリーユーが最優秀芝牝馬部門にノミネートされたというニュースが入ってきました。 本当に素晴らしいことであり、キャロットクラブの会報の今月号は、 冒頭20ページ以上に渡って マルシュロレーヌの記事 で占められていた狂喜ぶりも痛いほどわかります。

そんなマルシュロレーヌがJRA賞を受賞しなかったことが物議を醸しているようですが、ところで、 そのような日本の名牝が海外のブリーダーに突然購入され、海の向こうに突然連れていかれるというシーンを思い浮かべたことはありますか?

キングヘイロ―の母たるグッバイヘイローが日本に輸入される際、 ブラッドホース誌に「SAYONARA Goodbye Halo」と題した流出を惜しむ記事が組まれたようですが、 そんな寂しさを味わう立場となって初めて、世界の一流国と肩を並べたと言えるのではないか?……と思ってしまったわけです。 一昨年の米最優秀3歳牝馬に輝いた Swiss Skydiver の輸入という こちら の昨秋の記事にいまさら驚く日本のファンや関係者も少ないのでしょうが、 もはやそのような驚きを忘れた日本のサークルは一種の麻痺状態(不感症)に陥っているのかもしれません。

こちらの記事 のとおりタスマニア拠点馬で初めてGI馬となった Mystic Journey ですが、 こちらの記事 のとおりこの馬も日本に輸入されることとなり、現地関係者の喪失感もついつい想像してしまいます。

昨年10月に輸入されたラマンサニステルはウルグアイ産のGI牝馬ですが、ウルグアイ産GI馬自体が少ないので、日本に輸入された例は実に2頭目らしいのです。 そんな中、先日、ツイッターで相互フォローしているウルグアイのホースマンから突然メッセージを頂戴したのですが、 彼はラマンサニステルの現地での共有オーナーだったとのことで、日本で彼女は元気にしているのか、是非とも近況を知りたいとのことでした。 繋養先の牧場や輸入仲介に携わった関係者のご協力を得て、この馬の最新の画像や動画を転送して差し上げたところ、本当に喜んでおりました。 この現地オーナーに代わり、今般ご協力を頂いた関係者の方々には私からあらためて御礼申し上げます。

話を戻して、マルシュロレーヌやラヴズオンリーユーがエクリプス賞の最終候補に残ったということは、 現地で確かな評価を受けているという証左でもあることから、もしかしたら水面下で莫大な対価での取引話が持ち上がっているかもしれませんよ!  「そんなことあるはずがない」と思っているあなた、本当にそのように言い切れるのですか?  上述のとおり、時代および価値観というものは気づかぬうちに変わっているのです。

家族にしても恋愛にしても、出逢いと別れを繰り返しながらわれわれひとりひとりは大きくなってきたように、 我が日本の競馬サークルもそんな寂しさを何度も何度も味わって初めて、一流国と肩を並べたと宣言できるのではないでしょうか。

(2022年1月18日記)

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