国際化はまだまだ道半ば(その3)
本コラム欄では5年前に「国際化はまだまだ道半ば」と題したものを(その1)、(その2)と書きましたが、
久しぶりに今回はその続編です。
昨夏に執筆依頼を受けた新書を脱稿した旨は、前々回の「サイエンスコミュニケーション 〜右岸と左岸の橋渡し〜」に書きました。
このゲラ(校正刷り)を先週編集者より受け取り、じっくりと赤ペンを入れて、3日前、宅配便で返送しました。
ちなみにゲラを見て、拙著は300頁弱の構成となっていることを初めて知りました。発売日等はまだ知らされていませんので、わかり次第あらためてご連絡します。
とりあえず脱稿して、初校ゲラをもらって、そこにある校閲者のフリーハンドの加筆を見て思ったことがあります。
我が原稿の内容に関しては当然に門外漢の校閲者ながら、おのおのの章や項目における正確なご指摘には、著者という立場として思わず「なるほど……」
と唸ってしまうものがあり、本当に頭が下がりました。
著者が校閲者に直接お会いすることはなく、御礼の言葉は直接には送れませんので、ここに感謝の気持ちを記したいと思います。有難うございます。
ところで、「校正」と「校閲」の違いとは何でしょうか?
とりあえずウェブで調べてみると、校正とは表記の誤りを正すこと、校閲とは内容の誤りを正すこと、とありました。
が、その明確な境界線などないのが実際でしょう。
今年1月13日に放送されたNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』の「縁の下の幸福論 〜校正者・大西寿男〜」(こちら)は、
とても興味深い内容でした。登場した大西寿男氏の番組で紹介された作業は、チェック依頼を受けた原稿における表記や言い回しの修正のみならず、
ファクトチェックにもかなり深く踏み込んだものであり、上記の定義に従えば、校正というよりはまさしく校閲でした。
ちょっと前置きが長くなってしまいました。本題に軌道修正します。
2月のサウジアラビア、3月のドバイにおける日本馬の活躍で、海外メディアは日本の生産馬にかなり注目している様子であり、
競馬を開催しているあらゆる国々での日本に対する絶賛にも近いような記事もいくつか見ました。
しかし、そこに水を差すようなことを書くのも気が引けるのですが、確かに近年の日本調教馬のレベルは格段にアップしたものの、
主催者からファンまでも含める日本の競馬サークル全体において、つまり馬ではなく「人」の面において、どれだけ国際化に向けて前進したかについては、やはり疑問です。
「拙著の海外からの受注に際し思ったこと」でも書いたとおり、 血統面の論述において、
クロス [cross] は「(異種)交配」の意味であって近親交配の意味はなく、海外の関係者に誤解を与えないためにも、近親交配の意ではインクロス [incross]、
異系交配はアウトクロス [outcross] と言うべきは、海外とのコミュニケーションを見すえた是正すべき一例として繰り返し述べてきました。
今般執筆した原稿にもこの話は詳述しました。ただし今回、国際化の話をあらためてしようと思った一番の理由は、
(その2)にも書いた「GI」の意味およびその在り方を、ちょっと考え込んでしまったからです。
まず、現在の国内のGIは 25 あります。しかし、我が原稿をチェックしたプロの校閲者ながらも、これだけはその事実にたどりつけませんでした。
今般の私の原稿では国内のGI競走の数に触れる箇所があるのですが、校閲くださった方は JRA のウェブサイトを調べたようで、
そこにある「GI」の数は 24、「J・GI」を含めれば 26 というコメントが付されていました。
しかし、日本で開催の国際格付を得たGI、つまりJpnIを除いた「ジーワン競走」には東京大賞典も含むのです。
ちなみに、アーモンドアイの母であるフサイチパンドラは、海外からはGI馬とは見なされません。
この馬が勝った2006年のエリザベス女王杯は、その時点で国際格付のあるGIではなく、エリザベス女王杯が国際GIとなったのはその翌年からです。
けれども、このことをネット上で検索してみても、なかなかその事実にたどりつけません。
なんとかウィキペディアの「国際競走」にはその旨が書かれてはいますが、
ウィキペディアという媒体における記述には怪しいものはそこそこあり、
今般の執筆内容全般においても、ウィキペディアを参考・引用元とすることは避けるようにと編集者には言われていました。
作家の島田明宏さんは、ネットケイバでコラム『熱視点』を連載されています。
その中で、昨年12月15日に書かれた「愛称と、やめる勇気」には、
「GI」や「JpnI」などの表記の問題について、競馬に縁のない人にもすぐ理解できるよう1分以内、または200字以内で説明せよ、と言われたら、
誰でも困ってしまうという話を書かれていましたが、まさしくです。
深くうなずくと同時に、この問題は日本の競馬界が抱える大きな問題だと、少々暗澹(あんたん)たる気持ちにもなったのです。
エリザベス女王杯を例にすれば、JRA-VANの こちら のこのレースの説明文を見ると、
1984年にGIとなり、1999年に国際競走に指定とあることから、あたかもこの時から国際GIとなったような印象を与えます。
よって、「ジーワン」と呼ばれたものでも、正式な国際格付を得た前か後かを区別するように表記を分ければいいのに……などと思ってはみても、
しかしそれは表記の種類がさらに増えるので、かえって混乱を招きそうです。
まあ、JRAは1980年代、自らが主宰するレースに自らが「GI」の称号を与えたわけで、
「国内で独自にジーワンと呼んでいた〇〇というレースが、実際に海外にも認められるジーワンとなったのはそれよりずっとあとなんだよ」
……なんてことは、JRAが自ら言うはずなどないのですけどね。
そんな現状ながらも、サウジアラビアやドバイでの日本馬の活躍を見て、われわれ自身の脳内思考のさらなる国際化の必要性を感じるとともに、
海外との的確なコミュニケーションの実践およびハーモナイゼイション(協調)の視点を常に持たねばならないと思わずにはいられないのです。
(2023年4月6日記)
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