サマーセール雑感

一昨日までの5日間連続で開催されたサマーセールも無事終了したようです。 落札最高額馬は、父キタサンブラック、母バルスピュールの牡馬で5940万円(税込)とのこと。 さすが人気急上昇のキタサンブラックの勢いそのままという感じですね。 なおこの馬は、サクラバクシンオーの3×3という近親交配なのですが、 キタサンブラック産駒で3×3というと、即座に別の方面に想いが飛んだ方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そうです、現在アーモンドアイのお腹の中にいるのはキタサンブラックの仔であり、この仔も3×3です。 天下のノーザンファームがこのような配合をやっているのだからと、今般の落札者はあたかもお墨付きをもらったかのような気持ちになって、 このような額まで競り合って落札したということは果たしてあったのだろうか?? などと邪推してしまったのですが。

これら各馬が無事にデビューして、それぞれが活躍したとしても、逆に鳴かず飛ばずだったとしても、それはそれで各個体を創り上げた遺伝子などに拠るところの「個性」の結果にすぎません。 ふと思ってしまうのは、アーモンドアイの仔の方は3×3と言ってもサンデーサイレンスのであり、一方でサマーセールの落札最高額馬の方はサクラバクシンオーであり、 つまりこのことからも血統背景はまったく異なるわけですが、仮にこの両頭がすごい活躍でもしたならば、 「キタサンブラックの配合は3×3も好ましい」などという単純帰結の怪しい言説も現れてしまうのでしょうか。

ちなみに、アーモンドアイの仔はシルクレーシングに卸されるのが一本道なのでしょうが、無事に生まれて育った場合、募集価格はどのくらいになるのでしょう?  この馬がシルクのカタログに出て、馬体や身のこなしがよく、そして出資を検討する各自の予算内であれば、出資はレッツゴーかもしれません。 しかし、別稿ではしつこいまでに書いているように、近親交配にはリスクがつきまといます。 いつも思うのは、「この馬は〇〇の3×4だから」というような言葉が飛び交っているにもかかわらず、 このような近親交配馬に出資する方々は果たして、遺伝学的に理論上は「3×4」と「3×3」とはどの程度の違いがあるのかなど、 そのインブリーディングのメカニズムおよび近交度合い(遺伝学で言う「近交係数」)の解読法を理解しているのだろうかといつも思ってしまうのです。 こちら ではシーザリオの仔のルペルカーリアの例を出しましたが、 特に こちら に書いたファントムシーフにおける誤解などは、その解読法が理解されていないことを示す最たる例でしょう。

ところで、こちら はサマーセールに関する日刊スポーツの記事ですが、 その締めの言葉に「多様な種牡馬の産駒が求められていることが確認できる」とありました。 しかし、或る方がSNSにこの記事に対する異論として、「"種牡馬に関係なく、いい馬が求められている" のでは?」と書かれていたのですが、 これについては私は大きくうなずいてしまいました。 この日刊スポーツの記事は、馬選びの評価項目において「種牡馬」という概念が大きく占めているとの思い込みがベースになっており、 このような思考は、いまだに競馬サークルの一定の方面に残存しているのかもしれません。 また、これを書いた記者の脳裏には、限られた著名種牡馬の産駒ばかりが登場する、 それこそ「究極にセレクト」されたセレクトセールの上場馬の血統ばかりが焼き付いているのかもしれません。

今般のサマーセールは、確かに落札最高額馬は父がキタサンブラックでしたが、過去のセールに比べて落札された馬たちの父親の名前がそこそこバラエティーに富んだようで、 これは、それこそ安直にブランド血統にまどわされることのない、バイヤー各位の相馬眼の底上げがあったということなのかもしれません。 さらに言えば、血統、馬体、その他もろもろの面から眺めても溜息が出るほど素晴らしい馬を得るために金に糸目を付けないセレクトセールに集まるバイヤー各位よりも、 言葉はちょっと悪いですが、ランクが落ちる日高のセリで一発逆転を狙うバイヤー各位の相馬眼に今後は期待が持てそうだ、ということなのかもしれませんよ。

一昨日、社台スタリオンステーションは各繋養種牡馬の今年の種付総数を発表しました。 そのトップはキタサンブラックで242頭とのことで、続いてコントレイルとマインドユアビスケッツの211 サートゥルナーリアの201、エフフォーリアの198とのことです。 その中でも今年急きょスタッドインしたエフフォーリアが198頭もというのは驚きであり、これに関する懸念は こちら に書きましたが、 この200頭近い配合のパターンがどうしても気になってしまうわけです。 エピファネイアは124に留まったようですが、いずれにしても、これら社台SSの人気種牡馬の種付料や種付数には当然に人気のバイアスが見て取れます。 一方で、落札された馬たちの父親名にそこそこの多様性が見出せたサマーセールには、 日本の生産界におけるいい意味での新たな動きをなんとなく感じてしまったのですが、果たして。

追伸ですが、こちら に書いた上山牧場さんのフクシアの牡馬(父ルヴァンスレーヴ)には、2200万円(税込)でハンマーが降りました。 是非とも活躍してほしいです。

(2023年8月27日記)

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