出戻りの血

ハーツクライ産駒で米GIを2勝した Yoshida(以下「ヨシダ」)は米国で種牡馬として供用されていましたが、来年度よりダーレー・ジャパンで供用されるとの情報が入ってきました。 これは逆輸入のようなかたちになるので、ちょっと驚きました。 サンデーサイレンスの父系は米国では根付かないというようなコメントもSNS上では見かけましたが、 もしもそのコメントに信憑性があるならば、「父系」に書いたようなことからも、米国の生産界における感覚にはちょっと疑問を持たざるを得ません。 当然に米国はサンデーサイレンスの血を持つ馬は少なく、そのインブリーディングのリスクも低いわけですし。

そこで思うのは、このヨシダの導入はダーレーの積極的な意向なのかどうかということです。 ハーツクライの仔を含めたサンデーサイレンスの孫種牡馬があふれかえっている日本の生産界に、 能動的な意思でこの馬を導入するとしたならば、その理由として想像するのは、GI馬たる母ヒルダズパッションの血に何かしらのものを期待しているのだろうか? ……ということと、サンデーのインブリーディングに対してダーレーはリスクを感じてはいないのかな?……ということです。

ところで、「アーモンドアイの交配相手に思うこと」の中に引用した こちら の記事のように、 ダーレーは新人に対して配合に関する研修を実施しているとのことでした。 これは非常に有意義なことだと思っており、一度その研修のプレゼンを拝聴したいとも思ったものです。 この記事にあるように、新人スタッフは、生まれくる仔を売りに出す場合と自己保有する場合とに分けて、それぞれのベストな配合を模索するというものらしいのですが、 売りに出す場合は、サンデーサイレンスのインクロスに対するリスク感覚が依然として低いと言わざるを得ない日本のサークルですので、 ヨシダのような種牡馬を配合相手に選ぶパターンも十分にありのような気がします。

一方で、自己保有を考えた場合に、生まれきた仔が牝馬ならダーレー自ら繁殖供用も視野に入れるとして、 サンデーの血が濃いヨシダのような馬を敢えて選択したならば、(僭越ながら)私が審査員なら辛口なコメントをするような気がします。 以上のようなことをつらつらと考えると、本当にダーレーはヨシダを導入したくて導入するのだろうか?  つまり、何らかの事情があり、日本に持って来ざるを得なくなったのかとついつい邪推してしまうのです。

ダーレーは、他に来期より Adayar(アダイヤー)、Hukum(フクム)、Palace Malice(パレスマリス)も種牡馬として導入するとのことで、 かなりアグレッシブな気配ではありますが、すると、配合において「種牡馬」というものに対する比重をより強く念頭に置いていないか? ……という点もちょっと気になってくるところです。 そして、ダーレーのウェブサイト中の こちら にあるフクムに対する推奨文言である 「その母系を遡ると伝説のナシュワン (Nashwan) やネイエフ (Nayef) の母ハイトオブファッション (Height Of Fashion) に辿り着く秀逸のファミリーです」 には、ほんの少し違和感を抱いてしました。 「名牝を母に持つ名種牡馬」(その1) (その2)に書いたように母親が名牝という話ならまだしも、 フクムは牡馬ゆえにミトコンドリアDNAのような延々と母方から授かる「母性遺伝」をする因子を産駒に授けることはできないことから、 5代前の牝祖の名前を持ち出すことに対して疑問符を打ちたくなってしまったわけであり、 もしもこのような言及にダーレーの上層部が何とも思っていないとしたなら、果たしてどうなのだろうかと。

社台グループ(というよりノーザンファーム)の独り勝ちでは競馬界が盛り上がらないのはもとより、 きちんとしたライバルの存在なしにサークル全体の底上げもないことからも、ダーレーの今般の動きに対して、応援の意味も含めて以上のようなことを思ってしまったところです。

……と、今日のコラムは以上で締めるつもりでしたが、先ほど行われた朝日杯FSをパレスマリスの産駒たるジャンタルマンタルが快勝しました。 ダーレーにとってはまさしく渡りに船であり、まだ発表されていないパレスマリスの種付料にも影響があるでしょうね。

(2023年12月17日記)

パレスマリスの種付料は350万円と発表されました。妥当なところなのでしょうか。

(2023年12月22日追記)


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