『優駿』における表記がようやく変更に

もう6年前になりますが、「近親交配(インブリーディング)とは何か?(その1)」では、 JRAの機関誌たる『優駿』が、オルフェーヴルの仔なら無条件に「ノーザンテースト 4×5」と表記していること、 つまり競馬サークル全体に誤解を蔓延させていることに対して非常な懸念を抱いている旨を書きました。 この表記は『優駿』の冊子中央あたりに綴じられている「重賞プレイバック」においてであり、 これについては、5年前に書いた「「なぜ?」と思うことの大切さ」でも再度指摘しましたが、 その後もこの表記が修正される気配はまったくありませんでした。

ところがです。先月末発売の『優駿』3月号からは、なんとその表記が修正されているのです。 今年の2月号までの「重賞プレイバック」における当該表記は こちら に赤く矢印で示したとおりでしたが、 それが最新の3月号では こちら のとおりです。 ご覧のように、「5代までのクロス」という文言が「5代までのインブリード」に変わっており、 そしてインクロスしている共通祖先の名前の前にとうとう「S」と「М」の文字が加わったのです。 しかし、ふと思いました。当該修正は、なぜ3月号からという中途半端な時からなのでしょうか?

昨年5月に発売の拙著『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』では こちら のとおり、 その「重賞プレイバック」における近親交配に関する表記の不適切さを指摘したので、もしかしたら拙著を『優駿』の編集部の方がようやく読んでくださったのかもしれません。 または、読んでくださった関係者の方が編集部に指摘してくださったのかもしれません。 拙著ではさらに、近親交配の意味で「クロス」という言葉を使うのは適切ではない旨を こちら のとおり書きましたが、 今般『優駿』がこれら表記をセットで、それも非常にイレギュラーな時期に修正してきたことに、手前味噌ながらそのように思わざるを得なかったのです。 拙著はサークル内における科学的啓発の意味を持たせて執筆しましたが、もしも上記の修正の引き金になったとしたなら、とても嬉しい話です。

一方で、「 バイアスのかかった遺伝子プール(その4)」および「競馬ジャーナリズム」では、 昨年のクラシック戦線を賑わせたファントムシーフの配合における近親交配の解釈やその表記について問題点を指摘し、 さらに拙著でも こちら のとおり、「国内最大級の競馬情報サイト」 を標榜する『ネットケイバ』のサイトにおけるこの馬の近親交配に関する表記の不適切さを指摘しました。 しかし、年が明けてもこの馬の血統表は こちら のとおり修正の気配がないため、実は先月、直接ネットケイバ側にその旨を伝えました。 確かに現在の表記の方がキャッチーでファンの目は引きますが、国内最大級のサイトが果たしてそれでいいのかということです。 誤解の拡大防止の観点からも見直すべきものです。

話を『優駿』に戻せば、そこに寄稿しているライターの方によると、その原稿に用いる語句について所定のルールがあるとのこと。 よって、今般上記のとおりの修正がなされたことから、今後の『優駿』内のすべての血統関連の記事において、 近親交配の意味で「クロス」という言葉を使うことは完全に避けられるようになったのではないかと想像します。すると、別途ここで新たな疑問も湧きます。 『優駿』に血統関連の寄稿をしてきたライター諸氏は、上記の「重賞プレイバック」の表記等に対して私と同様の違和感を覚えることはなかったのだろうか、 あったとしてもきちんと編集部にその旨を伝えたのだろうか、という疑問です。

(2024年3月1日記)

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