バイアスのかかった遺伝子プール(その10)

前回の (その9) ではサートゥルナーリアの昨年の交配相手の状況を解説しましたが、今回はエフフォーリアです。 こちら が『スタリオンレヴュー』の2024年版におけるサートゥルナーリアの昨年(2023年)の交配相手のリストであり、 黄色がサンデーサイレンスの3×4のインクロス、緑色が3×5、桃色が4×4、青色が4×5です(色が多重の件は以下で詳述)。

この交配総数198のうち、サンデーサイレンスのインクロスのパターンは122(=62%)でした。 この198で内国産牝馬(持込らしきものは除く)相手のものは153であり、また上記122は全てこの内国産牝馬を相手にしたものであり、 すると内国産牝馬相手の場合にサンデーのインクロスとなるのは122/153=80%となります。 前回の (その9) では、サートゥルナーリアが内国産牝馬を相手にした場合にサンデーのインクロスになるのは95%であると書きましたが、 あくまでそれに比べれば低い値ではあります。

しかし、エフフォーリアの場合はここからが重要です。上記のリストを再度眺めていただきたいのですが、 エフフォーリア自身はサンデーサイレンスの3×4なので、交配牝馬にサンデーの血が入っていれば自ずと「多重インクロス」となり、 サンデーのインクロス持ちのエフフォーリア産駒は全て、ご覧のとおり複数の色持ちとなるわけです。 つまり、サンデーの孫牝馬を相手の場合は、3×4と3×5の2つのインクロスを持つこととなり、上記リストでは黄色と緑色が混在するパターンがそれです。 また、サンデーの曽孫牝馬を相手の場合は、4×4と4×5の2つのインクロス持ちとなり、上記リストでは桃色と青色の混在です。

このリスト中で、ちょっと気になった配合を挙げてみます。 まず こちら の配合ですが、とうとう5代血統表にサンデーサイレンスの名が4つも出現するパターンが登場しました。 次に こちら の配合は、サンデーサイレンスに加えてスペシャルウィークもインクロスしていて複雑です。 多重インクロス馬の近交度合い(近交係数)の解読法は「近親交配(インブリーディング)とは何か?(その2)」に書きましたが、 エフフォーリアによるサンデーの多重インクロス馬量産開始の現状ながら、生産者、馬主、評論家から一般の血統論者に至るまで、 きちんとこの解読はなされているのでしょうか?

さらにこのリストで留意したいと思った事項として、黄色と緑色の混在配合(3×4と3×5のインクロス持ち)の70例のうち、 ディープインパクト産駒の牝馬相手のものは29例(=41%)にも上りました。 また、桃色と青色の混在配合(4×4と4×5のインクロス持ち)の51例のうち7例はアドマイヤムーン産駒の牝馬が相手のものでした。 アドマイヤムーンという種牡馬の知名度に照らすと7例はちょっと突出しており、なぜだろうかと思ったのですが、 こちら のとおり、どうもケイティーズファーストのインクロスを入れることを狙ったのではないかと。 牝馬のインクロスを好意的にとらえる言説を以前何度かSNSで見たことがあるのですが、そこに特別な科学的意義は見出せないことは 「近親交配(インブリーディング)とは何か?(その7)」に書いたとおりであり、 生産者が疑似科学に翻弄されていないだろうかという疑念もあらためて抱かざるを得ません。

このような多重のインクロスを持って生まれた牝馬が成長して将来繁殖に上がり、今度また同じ血を持った種牡馬と交配すれば、幾重にも「上塗り」となるわけです。 そしてその父方および母方の双方に名前が出てくる共通祖先が6代前ともなれば5代血統表には現れなくなります。 これが、多様性が低下した遺伝子プールにおける盲点となるわけです。

(2024年4月10日記)

バイアスのかかった遺伝子プール(その11)」に続く

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