再びの青森訪問
昨年に続き、一昨日から昨日の1泊で今年も青森の生産地を訪問しました。
懇意にしている生産者の方々に再度お話をお聞きするのと同時に、いままで面識のなかったいくつかの牧場にも訪問させて頂きました。
牧草作業等でお忙しいながらもご対応を頂き、本当に有難うございました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。
昨年の訪問記の こちら にも書いたとおり、現在の馬産のメインは北海道ですので、
往時に比べれば青森は非常に寂しい現実があります。しかしながら、規模は小さくとも、各生産者の確かな情熱は十分に感じました。
今回の訪問でお聞きしたことを基に、気づいたことを書き記したいと思います。
或る生産者の方は、配合種牡馬の血統はあまり深く考えないとおっしゃっていました。
まずは「売れる馬」をつくることが第一であり、配合相手は相応の評価を得ている種牡馬、ただそれだけ、といったようなお話でした。
言われてみると当然の話です。思わずなるほどと頷きました。
仮に生産者が自らの深い想いを込めた配合を模索し、その結果、非常に満足のいく馬を生産したとしても、それに対して相応の対価を支払うまともな買い手がつかなければどうにもならないわけです。
このあたりはマーケットブリーダーの宿命ですし、同じ境遇の生産者であれば同じ考えだと思います。
確かに、このようなお話をお聞きすると若干の歯痒さはありますが、まさしく当然のお話であることを理解させられるのです。
また、毎度のことながら、各生産者には近親交配(インブリーディング)への対応についてもお尋ねしているのですが、こちら にも書いたように、
いままで私がお話を伺ったほぼ全ての生産者の方々は、2×3は避けるが3×3はボーダーラインとのご認識です。
サンデーサイレンスの血の蔓延で3×3を避けることが非常に難しくなっている現実において、
或る生産者は、実際に3×3をいくつか実践しているが、健常面で特別に気になった例はなく、今後も3×3はいとわないというお話でした。
ただ、確実に認識して頂きたいと常々思うのは、例えば、3×4がダブルで入った場合の近交効果です。
遺伝学の「近交係数」は、3×3は3×4の2倍であり、つまり3×4が2つ入ると3×3と同じ近交リスクがあります。
ここで、藤沢和雄厩舎の2歳馬であるオーロラフラッシュの血統表をご覧頂きたいのですが(こちら)、
Sadler's Wells とデインヒルが各々3×3であり、これの近交係数は2×3と同じになるのです。
昔、ビジネスに迫り来るリスクの型として、「コブラ型」と「ニシキヘビ型」の話を聞いたことがあります。
コブラは、ご存知のとおり猛毒を持ち、噛まれれば瞬時に命の危険に陥るものです。例えば、企業が内部告発により不正が発覚して一気に信用が下落するのがそれでしょう。
一方でニシキヘビは、コブラと違って毒を持たず、相手を徐々に締め殺すという大きな違いがあります。
特定系統への血の偏りに基づく遺伝的多様性の低下の話は こちら や こちら に書かせて頂きましたが、
これは、典型的なニシキヘビ型だと私は思っています。
「生産界」という巨大な身体に、ニシキヘビがゆっくりとまとわりつく姿を思い浮かべてみて下さい。
最初はゆっくりと自らの体にとぐろを巻かれても痛くも痒くもない。しかし、徐々に徐々にそのとぐろが幾重にも渦巻き、その力が増してきて、いつの間にか息苦しくなり……。
これ以上書くと「不安を煽るな!」と叱られそうですね。いずれにしても、こればかりは、生産者個々がどうにかできるという話ではありません。
まずは「競馬界を牽引する公の組織」こそがその科学的論点を認識し、そのうえでどのような方向を模索するかを識者(科学者)を含めて繰り返し議論しながら、
腰を据えて対処していくべきことなのです。
こちら にも書いたとおり、科学を蔑ろにするトランプ大統領は地球温暖化はでっちあげと言っているようですが、
将来、それがでっちあげではなかったと判明したとしても、その時点ではとっくに遅く、そう簡単には後戻りはできません。
生産界における遺伝的多様性の低下に対する対処は、それと全く同じことなのです。
話がかなり脱線したので、最後に青森の話に戻ります。
今回、七戸種馬場にも再びお邪魔し、アルデバランとデビッドジュニアにも再会しました。改めて思うのです、両馬ともに世界的な名馬なのに、どうしてこの程度の人気なのか?
彼ら「種付料10万円コンビ」にも、ディープインパクトが相手にしてきた牝馬群をそのまま持ってくれば、即リーディングサイヤーになれるのではないか?
冗談ではなく真剣に私は今年もそう思いました。ノーザンファームの馬あってのリーディングトレーナーであるように。
でも、年間200頭以上を相手にするハードワークではなく、数頭のお相手をする程度が、種牡馬各位にとってはのんびりと幸せなのかもしれませんね……。
デビッドジュニアの栗毛の流星を眺めながらそんなことも思ってしまいました。
来年もまた訪問します!
(2019年9月16日記)
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