競馬を愛する者が真に追い求めるもの

先週7日(金)の毎日新聞の夕刊に、こちら で触れた 「トウカイテイオー後継種牡馬プロジェクト」 が大きく取り上げられていました。 私自身、この記事に気づいたのはその2日後であり、既にファンの間ではこの記事は知れ渡っていると思いながらも、 その画像 を添付して、「一昨日の毎日新聞の夕刊ですが、社会面のスペースをこれだけ割くのは凄い」 とツイートしたところ、 いま、これを書いている時点で 「リツイート」 が 205、「いいね」 が 584 もあり、あらためて驚愕しているのです。

なぜこんなにも反応があるのか? 最初は、紙の媒体にあまり目を通さない現代人ゆえに、この新聞記事を初めて知った人が多いからだと思いました。 しかし、それにしても、こんな私レベルのツイートに対してあまりに多くないでしょうか?

理由をいろいろと考えてみました。まず、今般のプロジェクトのキーワードとして、「消えそうな系統」「日本ゆかりの血」「競走馬の末路」 が思い浮かんだのです。

他方、昨今は日本の競馬にあふれるブランド血統の馬。確かに一口馬主の投資やPOGの指名は、父も母もブランド価値を十分に有する馬を選んでしまうでしょう。 凱旋門賞にしても、日本産と言えども母が輸入GT馬のようなコテコテのブランド配合の遠征馬の応援に力が入らない部分が確かにあります。

今回のツイッター上での反響を見て、半ばそのような血統馬に飽き飽きしているファンが確実に増えてきているのではないかと思えてきたのです。 GT競走のパドックの輪の内側でニコニコと記念撮影をしているような人たちとは違う巷のファンは、やはり、 自身の姿を反映してくれるような馬にこそ夢を、そこにロマンを追い続けるのではないでしょうか?  小さな地方の競馬場から這い上がってきたオグリキャップの時のブームともどこか共通点がありそうです。

では、今般のトウカイテイオー産駒であるクワイトファインのプロジェクト、どのようにしたら確かな成功につながるのでしょうか?

「俺はダメな男だ。会社では評価が上がらないし、家でも女房子供には愛想をつかされ……」 と思い込んでいるちょっと疲れたお父さま。 しかし、それなりに頭のよさそうなお隣りのお父さんの血筋と自らの血筋の価値を仮に物差しで測れたとして、その差が何十倍も何百倍もあるとは思わないですよね??

少々不謹慎な比喩をしてしまいましたが、人間だってサラブレッドだって同じ 「動物」 です。哺乳類です。 確かにサラブレッドとは特定の血の人為的な選抜の繰り返しであり、「人が創り出した最高の芸術品」 のように喧伝されることもあります。 しかし、こちら でも書いたとおり、一流の競走成績を残して種牡馬になったような馬の間においても、 依然何百倍もの価値の差が本当にあるとするならば、既存の自然科学(生物学)が根底からひっくり返るような気もしてくるのです。

以上のようなことから、クワイトファインプロジェクトの関係者の皆様に僭越にもお願いしたいのは、この馬は、先日の社台SSの展示会で注目を集めたような種牡馬と比較しても、 全く引けを取らないと信じるような確かな気概を持って頂きたいのです。 こちら で紹介した論文のように、種牡馬の質の差はわれわれが思うほど無いというのが実際でしょう。

そして、成功の鍵は、どれだけの優秀な交配相手を集められるかです。 言わずもがなですが、ブランド種牡馬に集まるような牝馬がおいそれと集まるとは到底思えません。 そのためにも、なんとか集められそうな繁殖牝馬群の中からも、より良い配合になりそうな牝馬を手放さないような継続的な努力が必要になります。

私自身ここ数年、繰り返し生産地を歩いたりと競馬サークル内の様子を精力的に見聞してきましたが、依然痛感するのは、 例えばインブリーディングの科学的なメカニズムにしても、こちら で書かせて頂いたようなことはほとんど理解されていないということです。 よって、社台G(特にノーザンF)のような科学的手法で常に最高の成果を追求している組織の馬とも渡り合っていくためにも、 まずは本プロジェクトに関係するであろう生産者、馬主、調教師等に対して、上記を含めた周辺知識の理解を促す地道な科学的啓発が必須と考えます。 調教師たりともこのあたりの知識は非常に怪しく(こちら を参照)、 彼らのあらぬ先入観を払拭すべく、プライドを害さないようにきちんとこれらを啓発していかなければ、産駒の入厩交渉にも影響するように思われるのです。

2頭の若駒(AとB)がいたとします。Aは父ロードカナロア×母GV馬、Bは父クワイトファイン×母GT馬だったとして、どちらかの選択を迫られた場合、 ともに同様の好馬体で、近交係数も同様で、他の諸々も全て同様であれば、私はBを選択します。

是非ともこのプロジェクトには、競馬を心から愛する人たちの想いを成就させてほしいのです。何卒よろしくお願いいたします。

(2020年2月14日記)

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