『ROUNDERS vol.5』に寄稿しました

ROUNDERS vol.5』 が11月8日に発売されます。 特集は「血統 血と知のギャンブル」であり、私は「サンデーサイレンスのインブリーディング配合急増に関する一考察」と題したものを寄稿させて頂きました。 そのエッセンスはこのコラム欄でもいままで書いてきたことではありますが、内容の骨格や語句を練り直して新たなデータを加えながら 8200 字にまとめ上げました。 なお、編集長の治郎丸敬之さんには直前に些細な文言修正をお願いしたりとご面倒をお掛けした部分もあり、この場を借りてお詫びするとともに、 あらためてお礼申し上げます。

また、こちらの YouTube『夢色グラス競馬チャンネル』では冒頭で治郎丸さんがこの本を紹介され、 血統本としては歴史に残る内容とおっしゃっていたのですが、その一翼を担った身として大変光栄な思いです。

今般の私の記事の見出しには、「サンデーサイレンスの3×3、3×4などインクロスは当たり前。そんな近視眼的な状況に警鐘を鳴らし、一石を投じてみたい」 と紹介文を書いて頂いたのですが、実際のところは、一石どころか巨大な岩を現在の日本の競馬サークルにストレートで投げつけるような気持ちで書きました(笑)。 それくらい強力に働きかけていかないと、別稿では繰り返し書いてきたとおり、日本の生産界、ひいては競馬界は後戻りができない手遅れ状態になると切に思っているのです。 ふと、やはりこの題材においては吉沢譲治さんの『血のジレンマ サンデーサイレンスの憂鬱』(NHK出版)を思い出す方も少なくないのかも……と思い、 一昨日あらためてこの本をパラパラとめくってみたのです。すると。。。

今回の寄稿では、こちらこちら でも揶揄表現として使った「金太郎飴」という言葉を当然のごとく用いました。 サンデーの3×4の馬に「金太郎飴」という言葉を当てはめたのは自分が最初だとずっと思っていたのですが、 なんと既に吉沢さんが使っていたのです! 以下は『血のジレンマ』の76〜77頁からの抜粋です。

「したがって何も考えずに、ただランダムに配合しても簡単に『三×四』ができる時代がいずれやってくる。そのサンプル数が総体的に多くなるわけだから、 大レースを勝つ馬も『三×四』が多くなるのは当然となってくる。 そのときピラミッドの頂点に光を当て、『やっぱり三×四は勝利の方程式だ、奇跡の血量だ』と声高に叫んでも、何の説得力もない。 ピラミッドの中段、下段のどこを切っても間違いなくサンデーサイレンスの『三×四』のはずで、早い話が金太郎あめのようなものなのである」

この本の記述における個々の表現までは完全に憶えてはいなかったわけですが、いやぁ、恐れ入りました……。 他方、ちょっと話は逸れますが、近親交配の意味で「クロス」という言葉は使うべきではないと私は常々是正を促しているものの、 あらためてこの本を読むと、吉沢さんも完全にそのように使ってしまっていますね(笑)。

ちなみに吉沢さんの近況は こちら に書いたとおりで、ネットや新聞には無縁の生活となっています。 よって、面白そうなネタを郵便で不定期にお送りしているのですが、実は5日ほど前に、 今般の『ROUNDERS』への寄稿ゲラのコピーを同封して『血のジレンマ』に通じる話ですねと手紙を出したところであり、昨日はその返事のお電話を頂戴し、 久しぶりにお元気な声を聴きました。

昨日の豪GIのビクトリアダービーは Hitotsu が制覇し、ピクシーナイトに続き2頭目のモーリス産駒のGI馬となりましたが、 シャトル先でもうけた産駒ゆえに当然のごとくサンデーのインクロスは入っていません。 よって、こちら でも書きましたが、シャトル先のモーリスの優秀産駒の配合は今後もじっくりと観察する必要がありそうです。

そして今日の天皇賞は、サンデーの3×4の総大将たるエフフォーリアが快勝しました。 この快勝劇を見てあらためて念を押したいと思ったのは、こちら でも書いたとおり、 日本の生産界はサンデーの3×4を即好意的に見て積極的にこの配合に突き進んでいくのか、 それとも、エピファネイアという種牡馬を例にするなら、近親交配につきまとう「負の作用」にも屈せずに優良産駒を出す素晴らしい種牡馬だ、 という別の視点を冷静に持てるのか、まさしくそこが今後を左右する非常に大きな分水嶺だということです。

このあたりの話は今回の寄稿に詳述しましたので、お読み下されば幸いです。

以上、今日のコラムは書き終えた……と思ったら、なんとまた吉沢さんから電話!  「エフフォーリアは強かったね」と今日のレースには感動のご様子。 この馬はまさしくサンデーの3×4であることから、吉沢さんの書いた『血のジレンマ』の話を持ち出すと、 当時はあの内容に対していろいろと言われてしまったようなことをおっしゃっていました。なんとなく想像ができます……。

私も、今回の記事は、自分なりのそれなりの覚悟を決めて書いたことを付記しておきます。

(2021年10月31日記)

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