米、欧、日の負のレース

今回も遺伝的多様性低下の問題に関して書きます。我ながらちょっと(かなり?)しつこいな……と思う部分がありますが、 競馬サークル全体があまりにこの問題に無関心である気がしてならず、どうかご容赦ください。

前回、アメリカの方が遺伝的多様性については日本以上に危惧する状況に入っているのではないかと書いてしまったのですが、しかし、 今日のヴィクトリアマイルの出馬表を見て、日本も相当危ないな……とあらためて思ってしまいました。 18頭中10頭がディープインパクトの産駒です。これを見て違和感を抱かない麻痺状態が現在の日本の競馬界ではありませんか?

そして こちら のとおり、さすがに『BLOODHORSE』もこのことをネタにしており、あくまで「表面上は」ディープインパクトを称賛するような内容の記事に仕上げていますが、 この記事が皮肉に見えてしまう私は単なるへそ曲がりなのでしょうか?  この記事が科学的造詣の深い記者によるものだったなら、「こんな感じだから日本の遺伝子プールもすでに無茶苦茶だぞ!」といったような視点だったのかもしれませんよ。

こちら では、「小さなお子さんがいらっしゃる方なら深く頷いて下さると思いますが、野菜嫌いのお子さんの言いなりになって、 ハンバーガーやピザばかり食べさせることがあるでしょうか?  しかし、もはや、子供に与える食べ物がハンバーガーやピザくらいになりつつあるのが現在の生産界です」 と書きました。もうお分かりでしょうが、ハンバーガーがサンデーサイレンスで、ピザがディープインパクト。 欧州なら、こちら にも書いたようにハンバーガーが Sadler's Wells でピザが Galileo。

そして、こちら に書いたように、サンデーサイレンスの曽孫種牡馬のエピファネイアやモーリスはサンデー孫牝馬の受け皿にされ、 サンデーの3×4馬の過剰なまでの量産体制に入り、つまり日本の生産界は、ハンバーガーやピザの製造ラインで金太郎飴までも作り始めてしまったのです。

われわれが住む地球上では、温暖化、プラスチックごみなどの問題が顕在化しつつあります。 確かに温暖化もプラスチックも今すぐどうということはなく、このまま行っても50年後、100年後もなんとか普通に暮らせているのかもしれません。 しかし、「経済優先」のマインドに支配され続ければ、こちら にも書いたようにまさしくニシキヘビに巻きつかれたかのごとく、 息遣いは怪しくなっていくわけです。

競馬界の経済の中心に鎮座しているのが大手ブリーダーですが、上記のような現状になんらかの施策を講じることは、 こちら にも書いたとおりアメリカでは裁判沙汰になっているように、 即大手ブリーダーの利益に相反することであり、大手ブリーダーに意見を申せない空気に完全に支配されている日本の競馬界なので、 遺伝的多様性低下の様相たる「近交弱勢」に陥ってしまうことがゴールたる今般の「負のレース」では果敢に先行している気配さえあります。 日本においても一定数の有識者は、このような現状に是正が必要だと気づいているはずですが、 これは、オリンピックはできるはずがないと心の中では思ってはいても、自らがそれを口に出せない政治家と酷似します。

あらためて今日のヴィクトリアマイル。18頭中10頭がディープインパクト産駒ということ、そして近年の日本(の特に大レース)ではこのような例が散見されることに対して、 @ディープインパクトのような種牡馬はすごいとポジティブに見るか、A遺伝的多様性低下を危惧しネガティブに見るか、これが大きな分水嶺となります。 こちら でも言及したような大手ブリーダーの思惑に基づく上記@のようなマインドが席巻する中、 きちんと科学的造詣を深めた上記Aのようなマインドがどこまで台頭してくるかで、これらの国(地域)同士におけるこの「負のレース」の到達順位が決まってくるのかもしれません。

少なくとも日本は、迅速に有効な施策を講じることにより、自ら競走を中止することを祈るばかりなのですが……。

(2021年5月16日記)

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