トルコの血筋
いま、トルコの生産者と仲良くなり、やり取りをしています。
きっかけは、こちら に書いた米国ケンタッキーの Performance Genetics という組織と私が、
一部のデータベースでは 1-a 族とされている或る枝葉系統がその牝系の元来のミトコンドリアDNAの型(ハプロタイプ)と合致しないことについて、
ツイッター上でやり取りをしていたのをこの生産者は見ていたようで、「自分が所有する繁殖牝馬の牝系にはどの程度の活躍馬がいるのか?」
と私に問い合わせてきたのが始まりです。
そしてその生産者が所有する繁殖牝馬の血統を早速拝見したのですが、ほとんど見たことがないような異系の血であふれていることにかなり感嘆してしまい、
今回はこれに関する話を以前書いた「ドイツの血筋」の姉妹編として書きたいと思います。
まず、この生産者が自己の繁殖牝馬の中で最もご自慢と言っていた馬(※1)は、現地のクラシック(※2)を含めたグレードレースをいくつか勝った馬なのですが、
その父は Red Bishop、
母の父は Private Tender で、私として全く知らなかった種牡馬であり、
この牝馬自身は5代前までにインクロスなしでありながらも Northern Dancer の血も全く入っていないことに驚きました。
(※1)念のため名前は伏せさせて下さい。
(※2)トルコの競走に「クラシック」という言葉を使って良いのかはいまいち分かりませんが。
この生産者が保有する他の牝馬の父および母の父も全く知らない種牡馬ばかりであり、
これを見てふと、「隠し味のような血の意義」に書いたように、
血の偏りが顕著な競馬先進諸国においてはこのような血筋がカンフル剤になるのでは?……と思ってしまったのです。
欧州生産界を席巻する Galileo、そしてその偉大なる母 Urban Sea の牝系は傍流と見なされたドイツのものでしたが、
「名牝を母に持つ名種牡馬(その1)」に書いた仮説に基づくドイツの血筋の作用が隠し味を通り越してあまりにも絶大で、
結果として「Galileo の血に埋没する欧州」に書いたようなオーバーラン現象を起こしているというのが私の見解です。
そして思うのは、われわれはパートT国を中心とした競馬先進諸国の生産界においてよく見かける血筋こそ有用と思ってしまっていないかということです。
「ドイツの血筋」では、派手なブランド血統に依拠することのない矜持(プライド)をドイツの生産界に感じると書きましたが、
トルコの生産界もそんな矜持を見失うことなく、無意義なブランド血統の崇拝などしないでほしいと切に思うのです。
もしかしたら現時点でパートUの位置づけに留まっているがゆえに、周囲から余計な触手を伸ばされずに済んでいるのが幸いしているのかもしれず、
今後は周辺諸国の金満オーナーやブリーダーからの甘い誘惑に負けずにそんな矜持を持てるのかが鍵かもしれません。
あらためて上記のご自慢の牝馬ですが、年齢的には峠を越えてはいるものの、今年も元気に
Run Away and Hide という種牡馬の仔を出産予定とのことです。
また、この馬の過去の交配リストも見せてもらったところ、ディープインパクト産駒で目黒記念を勝っているスマートロビンの仔を2頭も産んでおり、
日本の競馬に接する者のひとりとして非常に嬉しくなってしまいました。
英千ギニー馬 Natagora を出したディヴァインライトがトルコに行ったと聞いたときは都落ちかと思ってしまった自分が恥ずかしくもなりました。
既にトルコに渡ったヴィクトワールピサ、クルーガー、メールドグラースといった種牡馬が、現地で素晴らしい産駒を出す期待は高まります。
こちら は送ってもらった現地種牡馬リストからの抜粋で、左側はトルコジョッキークラブの所有、右側は個人所有の種牡馬とのことです。
ちなみに、今回のトルコの生産者の話をツイッターに書いたら、或る方から、
トルコに輸出されたヴィクトワールピサこそ Northern Dancer の血を全く持ってないので、
日本の生産界としては結構な損失のような気がしているとのコメントを頂戴したのですが、これについては全くの同感であり、
また、オーストラリアに渡ったネオリアリズムも Northern Dancer の血を全く持っていないとの声も頂戴しましたが、確かにそうですね。
さらに別の方からは「21世紀の Nearco がトルコから生まれるかもしれませんね」とのコメントを頂戴したのですが、
これにも大きく頷き、傍流と見なされたドイツから Urban Sea、そして Galileo という名馬が出現したように、
独自の血筋をいくつも育んでいるトルコからも何かすごい馬が出てくるような気がしてならないのです。
最後に余談。トルコは暖かい国だという先入観があったのですが、イスタンブールのこの生産者との数日前のやり取りでは、
雪で身動きが取れないと言っていたのでちょっと驚いたのです。
こちらの記事 のとおり、
大雪でイスタンブールの空港の屋根が崩れたとのことで、まだまだ相手方の国のことはほとんど知らないことにあらためて気づき、
今後もこのような熱心な生産者たちともっともっと交流して情報交換ができればと、
庄野真代さんの『飛んでイスタンブール』
をBGMに聴きながら思ったところです。
しかしこの曲には「飛んでイスタンブ〜ル 光る砂漠でロ〜ル♪」とあるので、ドカ雪が降る都市とはさすがに思わなかったなぁ。
そもそもイスタンブールに砂漠など無いらしい……。
(2022年1月30日記)
今日もこのトルコの生産者とやり取りをしたのですが、上記のご自慢の牝馬は、今年はトルコダービー馬である
Graystorm を交配予定とのこと。
その配合は依然として Northern Dancer の血は薄く、また Mr. Prospector の血も双方に全く持たないながらも、5代前までに重複のない全くのアウトクロスとなり、
まさに血の偏りが顕著な諸国で実践しようにも不可能な配合パターンでしょうね。
(2022年2月2日追記)
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