執筆の途中経過(その2)

「遺伝学の基礎に沿った競走馬の血統に関する入門書」の趣旨で新書の執筆依頼を受けている旨は(その1)で書きましたが、 ようやく原稿は8合目まで来ました。 正月休みにはなんとか最終稿を完成させて、その後は編集者と全体の章の構成や文量、さらには挿入図などの細かい部分の相談になるかと思います。

章の構成については、いろいろと試行錯誤しました。書きたいこと、競馬サークルに訴えたいことは種々あれど、 あくまで依頼を受けた趣旨から逸脱しないことを念頭に置いてきましたが、しかし時にはやはり違う方向のことも書いてしまい、 何度も読み返しながら軌道修正してきました。

あらためて思ったのは、普段は生物学に接していない方々にも理解頂けるような言い回しの難しさです。 これは「「伝える」ということを考える」と題して(その1)および(その2)にも書いたとおりです。

例えば、自分の父親または母親との遺伝子一致率(共有率)は 50 %ですが、両親を同じにする兄弟姉妹(全きょうだい)間の一致率も限りなく 50 %に近いのです。 人間で言えば、親は1親等、兄弟姉妹は2親等とされるものの、遺伝子共有率はほぼ同じです。 遺伝のメカニズムをよく知っている人からすれば、ごくごく当たり前のことなのですが、これを分かりやすく説明するのが思った以上に難しい。

また、一卵性双生児の遺伝子一致率は 100 %である一方で、二卵性双生児は全きょうだいと同じく50%であることを理解すれば、 こちら に書いたように、ホープフルSでそこそこ人気になるであろうファントムシーフの近交度合いを誤解することなどなくなるわけで、 そのようなことをひとつひとつ啓発していければと思っています。

そして、本コラム欄では繰り返し警鐘を鳴らしている遺伝的多様性低下の件も1つの独立した章として掘り下げてみましたし、 「遺伝」という生命現象はまだまだ分からないことばかりであることからも、先に結論ありきの血統言説や、 配合シミュレーションゲームに見るような、あたかもデジタルに正解が導き出せるようなことはあり得ないことなども書きました。

順調であれば、出版は来年のクラシックの開幕に間に合うかなと思っていますので、引き続き気に留めて頂ければ嬉しいです。よろしくお願いします。

(2022年12月18日記)

執筆の途中経過(その3)」に続く

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