遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その6)

「遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族」と題したコラムは過去に5回ほど書きましたが、 今回は1年5ヶ月前に書いた(その5) の続編となります。

実は、続編を書くのはメイケイエールがGIを勝った時かなと思っていたのですが、まさかまさかのソダシの全妹たるママコチャが先週、GIスプリンターズSを勝ちました!  ゴール前は差されたかと思ったのですが、ぎりぎりに残したハナ差勝ちは、ソダシがGI馬となった阪神ジュベナイルFを彷彿させるものがありました。

ご存じのとおり、私は今世紀生まれのGI馬を網羅した母系樹形図を作成していますが、2-w 族はソダシのみの一本杉だったところ、 こちら のとおりめでたく加筆となりました。 ずっと、この一本杉に加筆するのはメイケイエールだろうと思っていたので、ちょっと予想外ではありました。 メイケイエールならシラユキヒメから別に伸びる「枝葉」になりますが、ママコチャはソダシの全妹ですから、依然として一本杉様ですけどね。

ママコチャのスプリンターズSの勝利は、この白毛一族において非白毛馬がGIを制したということで、とても意義深いことだと思っています。 (その2)に書いた仮説、また、拙著『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』の第7章「我が仮説」における 「仮説(その4)……偉大なるシラユキヒメの母系」に書いた話(こちらこちら)において、 メイケイエールをそのままママコチャに置き換えて考えてみることが可能です。

さらに言えば、メイケイエールはシラユキヒメの曽孫(ひまご)ですが、ママコチャは孫ですので、曽孫に比べてシラユキヒメの遺伝子継承量は倍多く、 その意味でもより意義深いかもしれません。 同じく孫で非白毛のルージュエクレールがスプリンターズSの前日の秋風S(3勝クラス)を勝って勢いに乗っており、本当にこの母系は目が離せなくなってきました。

ところでブチコは、初仔と2番仔がいきなりGIを勝ったということです。これ、別稿では繰り返し繰り返し書いてきましたが、 繁殖牝馬が生涯に産める数はせいぜい 10 数回であることを鑑みると、1頭の牝馬が複数のGI馬を産むこと自体が尋常ではないのです。 超名種牡馬に究極のセレクトで 10 数頭の超名牝を集めて交配させたとしても、果たしてその中から複数のGI馬が出るかという話です。 こちら でも触れたとおり、ディープインパクトの種付最終年は究極の名牝 20 数頭がセレクトされ、 ラストクロップとして10 数頭が生まれてきましたが、ここから英ダービー等を勝った Auguste Rodin が出たことは賞賛に値します。 しかし現時点でGI馬はこの馬のみであり、果たして続く馬はいるのでしょうか。

拙著の第4章「母性遺伝」の最後の部分では、 「個々の繁殖牝馬も種牡馬のように何百何千と仔をもうけることができるのであれば、サンデーサイレンス級の牝馬がたくさんいるのではないかとさえ思えてくるのです」 と書きました。すなわち、或る種牡馬において、最初に交配した2頭の牝馬から生まれてきた2頭がともにGIを勝つようなことがブチコにおいては起こった…… というものではないでしょうか。これ、サンデーサイレンスのレベルではないかもしれません。

ママコチャの快挙の一方で、ソダシは引退を発表しました。(その3) に書きましたが、ソダシの仔には多様な毛色が出る可能性があります。 他方、ママコチャやメイケイエールはすでに白毛遺伝子を持っていません。 この一族の白毛は俗に「顕性(優性)白毛」と呼ばれるものであり、メンデルの顕性(優性)の法則では顕性の性質を持つので、隔世遺伝もしません。 この話は、拙著の第1章「遺伝のしくみ」の中の「表現型と遺伝子型」の小見出しで始まる部分で書きました(こちら)。

そんなことからも、毛色の遺伝子とは違う何か特別な遺伝子をこの一族はシラユキヒメから受け継いでいるのではないか?  という想いが、ママコチャのGI制覇でますます強くなってきたのです。

(2023年10月9日記)

遺伝学的にも興味深いシラユキヒメの白い一族(その7)」に続く

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